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「わたしも、がんでした」

父のがんを通じて、私が変わったこと

家族編 「がんは“生きる”と向き合うプロジェクトです」(6)

 砂田麻美=映画監督

それぞれの人生には、かけがえのないものが、何かある

 ただ、それでも思うんです。どんな人も、それまで生きてきた人生というのが必ずあるわけで、もしがんになって、自分が死に向き合うとなったら、自分の人生って、どんなものだったんだろう、って人は必ず考えると思うんです。たぶん、私もそうします。

 そのとき、もし家族がいなかったり、腹を割って話せる友人がいなかったとして、じゃあ、その人に救いがないかっていうと、その人が送ってきた人生の中で、その人にとっての大切なこと、救いになるものは、必ず何かあるんじゃないかなって思うんです。断言はできないですけど、そうであると信じたい。

 その対象は必ずしも人間である必要はないのかもしれない。人によっては、本、かもしれないですし、音楽が好きな人だったら誰かの音楽かもしれないし、映画をつくっている私としては、映画だっていざというときに人を支えてくれるんじゃないか、とも思います。

 家族が不在だと、親しい人が近くにいないと、がんに、病気に向き合えない、ということはないし、人間はもっと強いものなんじゃないかと。天涯孤独な人ががんにかかって、その人の最大の楽しみが本を読むことなら、病の床にあっても本を読むことが支えになる。でも、がんが進行して、好きな本が読めなくなって、というときにはじめて、その人のために傍らで本を読んでくれる人が現れる、ってことだってあるんだと思います。

 それぞれの人生には、かけがえのないものが、何かあるはずで、それは家族かもしれないし、友人かもしれないし、芸術かもしれないし、自然かもしれない。

 うまく言えないですけれど、そんな自分にとってのかけがえのないものは何なのかを探し続けること。そしてそれに最後まで寄り添い、寄り添ってもらうこと。それが「がんと共に生きる」ときに、ものすごく大切なんじゃないかと、思っています。

砂田麻美(すなだ まみ)さん
映画監督
砂田麻美(すなだ まみ)さん 1978年生まれ。慶應義塾大学在学中からドキュメンタリーを学び、映画製作に携わる。卒業後はフリーの監督助手として、河瀨直美、岩井俊二、是枝裕和らの製作現場に参加。2009年にがん告知を受けた父の最期にカメラを向けたドキュメンタリー映画『エンディングノート』を製作。2011年に一般公開され、監督デビュー。同作は高い評価を受け、第52回日本映画監督協会新人賞・第36回報知映画賞新人賞・芸術選奨文部科学大臣新人賞他多数受賞。2013年にはスタジオジブリを題材にした『夢と狂気の王国』を監督。第39回トロント国際映画祭正式出品の他、香港・北米で一般劇場公開された。小説に『音のない花火』(ポプラ社刊)。

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中

 医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より

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