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「わたしも、がんでした」

専門家とのコミュニケーションは「信じる」ことから

家族編 「がんは“生きる”と向き合うプロジェクトです」(5)

 砂田麻美=映画監督

もし、相談できる専門家がそばにいてくれたなら

 ただ、いまでも心残りなことがあって、それはがん治療を受けている病院とお医者さま以外に、専門家による心理的なサポートやアドバイスを得られる機会を得られなかったことです。最期の瞬間を迎えるにあたって、相談できる医療従事者が近くにいなかった。

 がんと長期にわたって闘っている方のためには、例えばホスピスのような終末医療のための施設があります。父の場合、ホスピスの利用を具体的に考える前に、病状が一気に悪化して入院することになりました。

 それが年末の2009年12月25日のクリスマス。最後はなんとか家に戻してあげたいとも思いましたが、入院してからわずか5日後、家族みんなに看取られるかたちで、病院で一生を終えました。

 最後まで意識はしっかりしていました。みな父といろいろな話をすることができましたし、幸せな終わり方だったと思っています。

 でも、わずか数日でも本当に家に帰してあげる方法はなかったのか、いまでもその点について考えるときはあります。

 父はそれまで、それこそサラリーマンらしく「病院で死ぬのって現代では自然なことじゃないの」と言っていましたが、やはり最後の最後は家に帰りたそうだったから。ちょっとでいいから、家に帰してあげたかったな…って。

 私たちもできる限りのことをしてあげられたとは思ってるんですが、いろいろなことがあまりに急で、対応しきれなかった部分もある。その具体的な方法を尋ねられる人も、時間的余裕もなかった。だから全部家族だけで決断して、その方法までを用意しなくてはいけないっていうのは、正直難しい部分がありました。もし、死にひんした患者をもつ家族が具体的なことを頼ったり、相談できる専門家がそばにいてくれたなら、どんなに有り難かったかな、というのは、いま振り返って思うことではあります。

砂田麻美(すなだ まみ)さん
映画監督
砂田麻美(すなだ まみ)さん 1978年生まれ。慶應義塾大学在学中からドキュメンタリーを学び、映画製作に携わる。卒業後はフリーの監督助手として、河瀨直美、岩井俊二、是枝裕和らの製作現場に参加。2009年にがん告知を受けた父の最期にカメラを向けたドキュメンタリー映画『エンディングノート』を製作。2011年に一般公開され、監督デビュー。同作は高い評価を受け、第52回日本映画監督協会新人賞・第36回報知映画賞新人賞・芸術選奨文部科学大臣新人賞他多数受賞。2013年にはスタジオジブリを題材にした『夢と狂気の王国』を監督。第39回トロント国際映画祭正式出品の他、香港・北米で一般劇場公開された。小説に『音のない花火』(ポプラ社刊)。

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中

 医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より

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