誰かの死に直面しないと、人間、ほんとの意味では気づかない
私自身もいろんなことをいやでも考えさせられました。父ががんになる前と後では、考え方もいつのまにかずいぶん変わったなあ、と思うところがいくつもあります。
人の人生っていつか終わっちゃう、限りのあるものなんだ、っていう、当たり前のことを、自分ごととして突きつけられた。
人間ひとりの人生なんてせいぜい70年とか80年とかで、地球ができて生命が誕生して数十億年だかの気が遠くなるくらい長い時間と比べると、ほんとに一瞬、あっという間でしかないのに、なんで生きているのってこんなにしんどかったりするんだろう、人間の生きている意味って何なんだ、って思ったりするわけです。
でも、そこまで考えているうちに、私なりに思い至ったりするんですね。
どうせ宇宙から見れば、人の一生なんて一瞬なんだから、「人生の意味」なんかを考えたり悩んだってしょうがない、とにかく自分の最期の日まで、ちゃんと生きてればいいんだろうな、きっと…みたいな感じに。同時に人ってただそこにいるだけで、別の誰かになにかしらの影響を及ぼしている、ってことにもあらためて気づいたんです。もちろんいい影響もあるし、悪い影響もある。だったら、自分が生きている限りは、自分とちょっとでも関係している周りの人に、なんでもいいから、いい影響を少しでも手渡せるといい。それがちゃんと生きる、よく生きるってことかな、と。
父のがんに寄り添っていたら、本当に普段考えないことを考えさせられたんです。誰かの死に直面しないと、人間、ほんとの意味では気づかないし、考えないものなんですね。
映画監督

『わたしも、がんでした。 がんと共に生きるための処方箋』
(国立がん研究センターがん対策情報センター編、日経BP社)好評販売中
医学の進歩によって、「がん=迫りくる死」ではなくなっています。実はかなり多くの人が、がんと共に社会で暮らしています。しかし、がんと共に生きることや働くことは、日本社会ではまだまだ普通のことと思われていません。がんと共に生きるとは、働くとは実際にはどういうことなのか。それを知っていただくために、本書ではがんに関わる当事者の方々に語っていただきました。──「はじめに」より
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