「やさしいがんの学校」の12時間目は「緩和ケア」です。「緩和ケア」と聞くと「終末期の治療」とイメージする人も少なくないようです。しかし、緩和ケアは、痛みなどの身体的な苦痛や精神的な不安など、病気にともなうさまざまなつらさを和らげるためのもの。がんにおいては、がんと診断されたときから、がん治療と同時に受けることが推奨されています。緩和ケアの基礎知識を、埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長の余宮きのみ先生に聞きました。
緩和ケアとは?
がんになると、さまざまな苦痛やつらさに直面します。症状に加え、薬の副作用や治療中の不調(全身倦怠感、吐き気、食欲不振、便秘、不眠など)といった「身体的な苦痛」のほか、病気に対する不安や恐れ、気分の落ち込みやいらだちといった「精神的な苦痛」、治療費や生活費などの経済的な問題や働くことが困難になるといった仕事上の問題、家庭内の問題といった「社会的な苦痛」。そして、生きる意味や目的の喪失、周囲に迷惑をかける負担感といった「スピリチュアルペイン(霊的な苦痛)」なども挙げられます。
緩和ケアでは、病気にともなうこうした多面的なつらさを「全人的苦痛」と捉え、それら一つひとつの原因を探り、適切な薬や専門家の対応などによって、患者さんのつらさを和らげていきます。がんと診断されたときから受けることができる大切なケアです。
がんという病気を抱えた状態の中でも、患者さんが可能な限り自分らしく、自分が望むように過ごせるようにすることを目的としたケアを行います。
がんと診断されたときから、治療と同時に受ける
WHO(世界保健機関)では2002年に、緩和ケアを以下のように定義しています。
このように、かつてはがん治療による治癒や延命が期待できないときに、苦痛緩和を行う終末期ケアとしての側面が大きかった緩和ケアの概念が広がり、がん治療との早期からの連携が求められるようになりました。
日本では、2012年6月に閣議決定した「がん対策推進基本計画」において、緩和ケアについては「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が重点的に取り組むべき課題として位置づけられました。そこで、がん診療に携わるすべての医療従事者が基本的な緩和ケアを理解し、知識と技術を習得することが目標に掲げられ、がん診療に携わる医師に対する「緩和ケア研修会」の実施がスタート。全国のがん診療連携拠点病院(*)を中心に「緩和ケアチーム」の設置や「緩和ケアセンター」の整備が推進されるなど、質の高い緩和ケアを受けられる体制が整えられてきています。
*がん診療連携拠点病院とは、専門的ながん医療の提供、がん診療の連携協力体制の整備、患者への相談支援や情報提供などの役割を担う病院として、厚生労働大臣が指定した病院を指す。都道府県がん診療連携拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、特定領域がん診療連携拠点病院の3種類がある。
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