「やさしいがんの学校」の11時間目は「膵がん(膵臓がん)」です。膵がんは早期発見が難しいがんといわれますが、それ以上に、がんそのものが難治で、すべてのがんの中でも致死率がトップとなっています。しかし、近年では、がんが切除できた場合の治療成績は向上してきています。膵がんの基礎知識を、千葉大学医学部附属病院肝胆膵外科教授の宮崎勝先生に聞きました。
膵がんとは?
同じ条件下のがんでは、生存率が最も低い
膵臓はお腹の深部(後腹膜)にあり、胃や十二指腸、小腸、大腸、肝臓などの後ろに隠れるように位置しています。そのため、がんが発生しても早期発見が難しく、進行してから見つかるケースが多いのが特徴です。
ただし、早期にがんが発見されたとしても、同じ程度で発見された場合のほかのがんと比べると、膵がんの生存率は最も低くなります。これは、膵がんはがん細胞が増殖するスピードや浸潤(がんの広がり)が速く、リンパ節やほかの臓器へも転移しやすいことが要因で、とても難治のがんといえます。
罹患数は緩やかに増加傾向にあり、かつては男性の方がやや多かったものの、近年では女性の罹患率が増えてきています。2015年のがん統計予測では男女計で3万8700例で7番目に多く、男女別では半々(男性1万9400例、女性1万9300例)とされています。60歳ごろから罹患数が増加し、高齢になるほど高くなります。
膵がんは「Kras遺伝子」という遺伝子の変異が発症に関わっていることが分かっています。しかし、直接的な原因は明らかになっていません。リスク要因としては、喫煙、肥満、高脂肪食、糖尿病や慢性膵炎、膵がんの家族歴などが挙げられます。
初期症状の代表例は「黄疸」
膵臓は左右20cm程度の横に細長い臓器です。十二指腸に囲まれた右側は「膵頭(すいとう)部」、脾臓に接した左側は「膵尾(すいび)部」、膵頭部と膵尾部の中間は「膵体(すいたい)部」と呼ばれます。
膵がんの約9割は、「膵管」の細胞から発生する「膵管がん」が占めています。このため、一般に膵がんという場合は、膵管がんのことを指します。
膵がんは発生部位によって症状が異なります。体の正面から向かって膵臓の左側の 膵頭部に発症した場合は、胆管が圧迫されることで胆汁の流れが悪くなり、尿の色や白目の部分が黄色くなるといった黄疸(おうだん)の症状が現れます。このため、膵頭部のがんは、黄疸をきっかけに発見されるケースが多くなっています。
一方、膵臓の右側および中央の膵体尾部(すいたいびぶ)に発症した場合は、自覚症状が現れにくく、かなり進行してからお腹や背中の痛み、体重の減少などによって見つかることがほとんどです。
また、糖尿病を患っている人は、膵がんを発症すると病状が急に悪化したり、血糖のコントロールが難しくなったりすることもあります。