3人に1人ががんで死ぬ時代。人はなぜ“がん”になるのでしょう。今回は、がん細胞が生まれるメカニズムについて、国立がん研究センターがん対策情報センター・センター長の若尾文彦先生に聞きました。
免疫をすり抜けて増え続けるがん細胞
人間の体は約60兆個の細胞からできていて、細胞は常に分裂を繰り返しています。細胞分裂では、細胞の中の遺伝子がコピーされていきますが、正しくコピーできないと、異常な細胞が生まれます。体には、そうしてできた遺伝子の傷を修復する仕組みや、異常な細胞を排除する「免疫」という仕組みがあります。そのため、1度のコピーミスで問題が生じることはほとんどありません。しかし、この免疫の機能をすり抜けて、コピーミスが繰り返されると、がん細胞ができていきます。
正常な細胞は、無秩序に増えないようにコントロールされていますが、がん細胞にはその制御がきかないため、無制限に増えたり、広がったりしていきます(図1)。すると、がん細胞がかたまりとなり、周囲の血管などを取り込んで栄養を吸い取ったり、周囲の神経を圧迫したり、もともとの臓器を壊して置き換わったりすることで、栄養不足、痛みや臓器の機能低下などがんの症状が出てきます。がん細胞がその場所からはがれて、血管やリンパ管に入り込むと、さらに全身へと広がり転移していきます。また、がんは自分の細胞のコピーミスによるものですが、もとの正常な細胞に近い特徴も持っているため、がん細胞だけを選択的に攻撃するのが難しいという一面もあります。