「やさしいがんの学校」の8時間目は「甲状腺がん」です。甲状腺がんは、男性よりも女性に多く見られるがん。40~50代の比較的若い世代で発症することが多いものの、病後の経過は良好で、生存率の高いがんの1つです。国立研究開発法人国立がん研究センター東病院頭頸部外科長の林隆一先生に、甲状腺がんの基礎知識を聞きました。
甲状腺がんとは?
甲状腺は、甲状腺軟骨の先端、いわゆる喉ぼとけのすぐ下にある小さな臓器で、全身の代謝を促す甲状腺ホルモンを分泌しています。右葉と左葉からなる、羽を広げた蝶のような形をしていて、気管を取り囲むように位置しています。甲状腺の裏側には米粒大ほどの副甲状腺が左右に2対(計4つ)隣接しています。
甲状腺にできる腫瘍は大部分が良性ですが、中には大きくなったり、別の臓器に広がったりする悪性の腫瘍があります。この悪性の腫瘍が甲状腺がんです。
男性よりも女性に多く見られ、40~50代の比較的若い世代で発症する傾向があります。しかし、病後の経過は良好で、生存率が高いがんの1つです。
自覚症状はまれ、検診時に見つかることも
甲状腺がんでは通常、自覚症状はほとんどありません。しこり(結節:けっせつ)がある程度大きくなってくると、家族などに首の腫れを指摘されたり、健康診断での肺X線写真、乳腺の超音波検査の時に見つかったりするケースもあります。
進行してくると、声がかすれる(嗄声:させい)、血痰が出る、食事がのどを通りづらいといった症状が現れる場合もあります。
甲状腺がんのリスク因子として、放射線被曝が認められています。そのほか、一部の甲状腺がんには、遺伝によるものがあります。また、体重の増加やヨード摂取量の低下もリスク要因ではないかと示唆されています。
甲状腺がんの9割以上が乳頭がん
甲状腺がんは組織の特徴(組織型:そしきけい)により分類されます。分化がんと呼ばれる「乳頭(にゅうとう)がん」「濾胞(ろほう)がん」の2つのほか、「髄様(ずいよう)がん」「低分化がん」「未分化がん」に分けられます。
【乳頭がん】
甲状腺がんの9割以上を占めるため、一般的に甲状腺がんと言う場合は、この乳頭がんのことを指します。乳頭がんの初期では、首ののどぼとけの下あたりや他の部分にかたくて痛みのないしこりがあらわれます。
40~50代の比較的若い世代の女性に多く見られますが、手術を中心とした治療後の経過は良好とされています。
【濾胞がん】
甲状腺がんの約5%が濾胞がんです。乳頭がんよりやや高齢者に多く発症する傾向があり、肺など離れた臓器に遠隔転移しやすい特徴があります。乳頭がんと同様特別な症状はありませんが、術前診断が難しく、病理検査で濾胞がんと診断される場合がほとんどです。
【髄様がん】
傍濾胞細胞(ぼうろほうさいぼう:C細胞)という細胞が、がん化することで発生します。甲状腺がんの約1.3%が髄様がんです。乳頭がんや濾胞がんよりも進行が速く、リンパ節や肺、肝臓に転移しやすい性質があります。髄様がんの約2~3割は遺伝性(家族性)と考えられています。
【低分化がん】
乳頭がんや濾胞がんの中で、組織学的に低分化成分が含まれるがんが、低分化がんと呼ばれています。悪性度は乳頭がんや濾胞がんより少し高く、未分化がんよりは低く位置付けられています。
【未分化がん】
甲状腺がんの約1.4%が未分化がんです。急速な増大により呼吸困難や嚥下障害を引き起こします。リンパ節、肺や骨などへの転移を起こしやすい、悪性度の高いがんです。
分化がんの一部から未分化がんに転化することが知られており、特に分化がんの既往がある高齢者では注意が必要です。未分化がんでは診断時にすでに進行していることが多く、手術が可能であれば考慮されますが、治療が困難な場合も多いがんです。