昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
現代人の運動量は、近年さらに低下傾向にあるらしい。国民の健康づくり運動「健康日本21」(一次、2000~2012年)では、成人の1日当たりの歩数を1000歩増やすことが目標だったが、2011年11月に発表された最終評価(*1)によると、男性がベースラインの8202歩から7243歩、女性は7282歩から6431歩と、目標達成はおろか、1000歩近く後退しているではないか―。
運動は、生きていくために必要な営みだ。慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センター助教の東宏一郎氏は、「人間は、動き続けるようにプログラムされているので、動けなくなったら様々な機能が破綻する」と語る。
少しでもやればやるだけ効果があり、また続ければ続けるだけ、積み重ね効果があるのも運動だ。どんどんと体力がつき、同じ時間あたりにできる運動の量もどんどん増えていくため、運動の効果も高まる。
あなたに適しているのは「有酸素運動」か、「レジスタンス運動」か
もっとも、やみくもにやるのでなく、運動する目的を整理してみることも重要だ。健康づくりのための運動には、大きく分けて、「有酸素運動」と「レジスタンス運動」がある。
「有酸素運動」とは、エネルギーを消費させ、メタボリックシンドローム(メタボ)の改善や減量を目的とした人に適した運動だ。なるべく多くの大きな筋肉を使いながら、1~2時間にわたって続けられる、ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング…などが代表例。「有酸素運動」は、連続していなくても、小まめにたくさん行うことも大切だ。
一方、「レジスタンス運動」とは、サルコペニア(*2)やロコモティブシンドローム(ロコモ*3)の予防などのために筋肉を増やすことを目的として、例えば二の腕や腹筋など、目指す筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動。スクワットや腕立て伏せ、腹筋運動、ダンベル体操など、10~15回程度を数セット集中して行わないと、効果が上がらない(表)。
有酸素運動 | レジスタンス運動 | |
適している人 | メタボリックシンドロームの人・予備軍 | ロコモティブシンドロームの人・予備軍 |
目的 | 筋肉の質を高める(筋肉のエネルギー消費量を増やす) | 筋肉の量を増やす |
強度 | 低~中等度 | 高強度 |
時間 | 長時間 | 短時間 |
頻度 | なるべく頻回(できれば毎日) | なるべくまとめて(週2~3回) |
食事制限 | 必須 | 不要(むしろ増やす) |
「有酸素運動」では、筋肉が付くことはあまり期待できないし、体重も目に見えては減らないかもしれない。ただし“筋肉の質”は、確実に向上する。運動によって、筋肉内のエネルギー消費が増えると、効率よくエネルギーを利用するべく、筋肉ミトコンドリアが活発になるためだ。
ミトコンドリアは、食事から摂取した栄養と呼吸から得た酸素を使って、ATP(アデノシン三リン酸)を効率的に作り出している器官だ。ATPは「生体のエネルギー通貨」と呼ばれる。というのも、糖や脂質などのエネルギー源が筋肉の収縮をはじめ生命活動で利用されるためには、必ずATPに変換される必要があるからである。ミトコンドリアが活発になることで、筋肉内に蓄えられた大量の脂質を利用することができ、長時間運動が可能となる。そして全身の脂質代謝も改善することで、メタボも改善される。