昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。

日本人の男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんになるという時代。メタボが増えているように、がんも右肩上がりに増えている。そこに、両者をつなぐ道筋はあるのだろうか。
メタボはがんを増やすのか? ―正確にはそうとも言い切れない、というのが国立がん研究センターの疫学調査から得られた現時点での結論だ。
が、安心するのはまだ早い。メタボの構成要素である内臓脂肪(肥満)、そして2型糖尿病(血糖値の上昇)は、それぞれ独立してがんの要因になり、両者が合わされば、さらにリスクは増大する。血圧や脂質異常までを揃えることによって、さらなるがんリスクの上昇にはつながらないが、メタボとがんは、決して無関係ではないのだ。
メタボな人は、がん予備軍
日本糖尿病学会と日本癌学会の「糖尿病と癌に関する合同委員会」の報告では、日本人では糖尿病があると、男性も女性もがんのリスクが約1.2倍に増えるとされる。がんの種類別でみると、糖尿病があると統計学的有意に増えるのは、肝臓がん、膵臓がん、大腸がんの3つだ。
この他にも、欧米では、女性の子宮体がん(子宮内膜がん)と乳がん、また、膀胱がんも、糖尿病によって増えるとされている。一方、男性ホルモンに依存する前立腺がんは2型糖尿病では減る傾向がある。
同委員会のメンバーで、国立がん研究センター中央病院総合内科長の大橋健氏は、「肥満・糖尿病と、増加を示すがんの間には、高脂肪食や運動不足といった共通のリスクもある。どちらが“鶏”でどちらが“卵”なのかの判断は難しいが、いずれにせよメタボは“がん予備軍”と捉えたほうがいい」と忠告する。
がん全体のリスクが1.2倍というのは、なかなか微妙な数字だ。大腸がんは約1.5倍、肝臓がんと膵臓がんは約2倍だが、この2倍という数字は、受動喫煙で肺がんになるリスクと同じぐらいと考えていい(*1)。喫煙者の肺がん発症リスクは、非喫煙者の約4.5倍である。
ただ、糖尿病ががんの他の要因と組み合わさった場合は、リスクは跳ね上がる。例えば、ウイルス性肝炎のある人は肝がんになりやすいが、そこに糖尿病が加わると、発がんリスクはさらに高まる。最近は、メタボから非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を経て、やはり肝がんになる人も増えており、今後は、対策の進んだウイルス性肝炎に替わって、大きな脅威になると見られている(関連記事「飲酒習慣がなくても怖い脂肪肝、背景にはメタボ」)。