昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
全国のミドルエイジの皆様、グッデイ。ごきげんよう。突然ですが、童話のお時間です。
大人の寓話 『アリとキリギリス』

ある夏の夕暮れ、キリギリスが、ビールをしこたま飲み、ごちそうをたらふく食べ、野原で歌を歌っていると、脇をアリたちがゾロゾロ歩いてきました。
キリギリス「お~い、そんなに汗をびっしょりかいて、何をしているんだい?」
アリ「私たちは、健康診断でメタボを指摘されたから、一駅歩いてジムに通うところなんですよ」
キリギリス「ふーん。メタボは俺も同じだけど、特に気になる症状はないし。おいしい物を食べて、楽しく遊んでいれば健康にいいんじゃないのかな」
アリ「でもね、今はよくても、動脈硬化が進むと、後で取り返しのつかないことになりますよ」
キリギリス「病気のことは、症状が出てから考えればいいのさ」
アリたちを小馬鹿にして笑っていたキリギリスは、それからも毎日、陽気に歌って飲み暮らし、アリたちはせっせとジムに通って、バランスの良い食生活に努めました。
秋が来ても、キリギリスは、ますます陽気に歌を歌っています。そして、寒い冬が訪れ、ある朝のこと、キリギリスは、猛烈な胸の痛みと共に心筋梗塞に襲われ、手当てが間に合わず、そのまま命を引き取りました。ごきげんよう。さようなら。
What Is Metabolic Syndrome? (メタボとは何ぞや?)
2008年4月、かつて「成人病検診」と言われていた“大人の健康診断”が、「特定健診」(別名、メタボ健診)と銘打ち、装いも新たに登場した。それから6年余り、メタボリックシンドロームを略した「メタボ」は、今や子どもの会話にものぼるようになり、経済界にまで飛び火して、過剰消費体質をたとえて「メタボ経済」などと表現される。
体に起こるメタボとは、平たく言うと、内臓肥満を大前提として、高血糖、高血圧、脂質異常のうち2つ以上が重なった状態だ。身体に取り込んだ糖や脂質などをエネルギーに変化させる代謝(metabolism)が異常をきたすと、代謝症候群(metabolic syndrome)となる(表1)。
・内臓脂肪の蓄積:腹囲(へそ周り) 男性85cm以上、女性90cm以上
上記に加えて、下記の2項目以上が当てはまるとメタボリックシンドロームと診断する。
・脂質異常:中性脂肪 150mg/dL以上/HDL(善玉)コレステロール 40mg/dL未満 のいずれかまたは両方
・高血圧: 最高(収縮期)血圧 130mmHg以上/最低(拡張期)血圧 85mmHg以上 のいずれかまたは両方
・高血糖:空腹時血糖値 110mg/dL以上
日本におけるメタボの歴史は、1987年に松澤佑次氏(住友病院院長、大阪大学名誉教授)が、その前身となる「内臓脂肪症候群」を提唱したことに始まる。戦後の日本で徐々に生活が欧米化すると、心筋梗塞や脳梗塞など、それまでに日本人には少なかった心血管系疾患が増加してきた。とは言うものの、日本人は、体重や体格、食事内容の面で、欧米とはまだまだ隔たりがあった。松澤氏は、個々の患者に何が起こっているか、上流に何があるのかを細かく追跡していくうち、「ちょっとの小太り」(内臓肥満)に、「ちょっとの異常」(生活習慣病)が積み重なると、「大きなリスク」につながることを見出した。