昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
メタボと診断されたら、予防・改善には、「一に運動、二に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」と厚生労働省のスローガンはうたっている。もっとも、動脈硬化にとってたばこは大敵なので、「一に禁煙」でもいいぐらいだ。
たばこはメタボ関連疾患の発症を加速させる

たばこが動脈硬化を加速させるのには、たばこに含まれるニコチンの作用や体を酸化させる活性酸素(フリーラジカル)の増加などが関係しており、メタボ関連疾患の発症を一段と加速させる。
まず、血圧が上昇する。これは、ニコチンが交感神経系を興奮させ、心拍数が増加し末梢血管が収縮するためだ。さらに、煙の中の一酸化炭素が、血管拡張物質の産生を低下させる。また、血管内皮が傷ついたところに、喫煙に伴う酸化ストレス(酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用)によって変性した悪玉のLDLコレステロールがたまりやすくなる。
次に、血糖値も上げる。喫煙は、アドレナリンなどのストレスホルモンの分泌を高めるためだ。さらに、たばこの有害成分が、膵臓のβ細胞を傷つけてインスリンの分泌能を低下させる。
脂質異常も起こってくる。喫煙は、脂質にかかわる酵素の活性を低下させ、中性脂肪やLDLコレステロールを増加させるのに加えて、善玉のHDLコレステロールを減少させる。
さらに、喫煙は、血小板凝集の促進、凝固系因子を増加させるなどして、血栓を作りやすくする。こうして、見事に動脈硬化が出来上がり、血管はボロボロになる。
喫煙は予防可能な危険因子の堂々1位
日本人の死亡における予防可能な危険因子を比較評価した調査では、非感染性疾患と傷害による死亡83万4000件のうち、喫煙が危険因子だったものは 12万9000件に達し、高血圧の10万4000 件を抑えて、堂々のトップだ(*1)。
たばこが血圧を上げ、動脈硬化を促進させることを考えれば、喫煙による悪影響はより深刻だと言える。煙と共に、ニコチン、タールのみならず4000種以上もの化学物質が体内に入り、全身にダメージを与えるので、脳卒中や心筋梗塞のほか、肺がん、食道がんをはじめとして各種のがんのリスクを確実に押し上げる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患を引き起こした場合は、在宅酸素療法が必要となる場合もある。喫煙者は、喫煙しない人より、平均8~10年は短命になると推計されている(*2)。
*2 Sakara R, et al. Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers: a prospective cohort study. BMJ. 2012;345:e7093