昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
メタボは万病の元。“肝腎”な臓器のうち、肝臓も傷めば(「飲酒習慣がなくても怖い脂肪肝、背景にはメタボ」参照)、腎臓も傷んでくる。そこで、最近注目されているのは、AKBでもHKTでもない、CKDだ。CKDは、Chronic Kidney Disease(慢性腎臓病)の略で、慢性的に腎臓の機能が衰えていく病気を包括した呼び名だ。
腎臓も“沈黙の臓器”、症状が出るころには深刻な段階に
腎臓が体内で担う機能には、大きく2つがある。まず、体内の水分量を調節し、余分な体液を尿として排泄すること。もう一つが、その際に糸球体という組織によって水分を濾過して、体内の老廃物を尿中に排出し、血液に溶けている塩類(塩分、カルシウム、カリウムなど)のバランスを保つことだ。
健康診断の血液検査項目には、血中の老廃物である血清クレアチニンの値が含まれていることが多い。この値と年齢と性別に基づいて、腎臓が老廃物を濾過して尿へ排泄する能力を算出したのが、eGFR(estimated GFR;推算糸球体濾過量)という値だ。eGFR が60(mL/分/1.73m2)を切ると、腎臓の機能が衰えを示す黄信号。3カ月以上持続すると、CKDと診断される。
- 尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか
─特にたんぱく尿の存在が重要 - 糸球体濾過量(GFR)* 60 mL/分/1.73m2未満
1、2のいずれか、または両方が 3カ月以上持続する
*日常診療ではeGFRの値を用いて評価する
(日本腎臓学会編『CKD診療ガイド2012』より、一部改変)
肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれるが、我慢強さならば腎臓だって負けない。食欲不振、老廃物の蓄積によるむくみといった症状が現れてくれば、既にかなり機能低下が進行している可能性が高く、さらに深刻なことに、進行すると後戻りできない。
この診断基準によれば、日本人の成人人口の約13%(1330万人)がCKDとなり、48人いれば6人という高頻度である。
東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科教授の南学正臣氏は、「慢性的に腎臓の機能が低下すると、今の医学では元に戻すことができない。できるだけ早めに見つけ、透析に至るまでの時間をできる限り長くするのが、CKD治療の基本戦略だ」と語る。