2005年に「メタボリックシンドローム(メタボ)」という、新しい病気の概念が登場してから10年余り、2008年のメタボ健診(特定健診・特定保健指導)導入からも8年が経過した。メタボ健診は、日本国民を対象にした壮大な“実験”(試験)でもある。果たしてこの間に、日本人は、そして、あなたは、少しは健康になっただろうか?
瞬く間に流行語となった「メタボ」

「メタボ」(*1)という略語は、その語感の良さもあいまって、瞬く間に広まり、2006年の新語・流行語大賞のベスト10に選ばれた。大賞に輝くと、文字通り“流行”で終わりがちだが、幸か不幸か大賞を逸した「メタボ」は、踏ん張っている(ちなみに、同年の大賞は「イナバウアー」と「品格」であった)。
「メタボ=お腹が出ている中高年」という、世間で単純化されたイメージは、正確性を若干欠くものの、「太っていること≒メタボ≒何となく体に悪い」という理解が浸透しただけでも上出来かもしれない。もっとも、その本質を理解したい人は、ぜひ、この連載の最初から読み直していただきたいものである。
改めて、メタボ。日本、そして世界の人々の死因の3分の1は、心筋梗塞や脳梗塞などの、いわゆる心血管病(心臓や血管の病気)である。その背景として大きいのは、生活習慣病や加齢に伴う動脈硬化だとは分かっていても、「メタボ」登場以前は、そこに斬り込むのは、なかなか容易ではなかった。
糖尿病も高血圧も脂質異常症も、世の中にはそこそこ効く薬が飽和しており、手っ取り早く数値を正常化できる。ただし、それは“対症療法”の最たるもので、見かけ上は良くなりはしても、薬をやめれば後戻りする。
しかしながら、メタボだけは、上流にある原因として内臓肥満が分かっていて、運動、食生活改善、そして禁煙に励めば、“芋づる式”に動脈硬化、そして心血管病の予防になる。しかも、毎朝ベルトを締める際に実感できる“腹囲”は、複雑な計算が必要なBMI〔体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}〕と違って、実感しやすい。このシンプルさが、メタボの普及を後押ししたともいえる。
キーは、内臓脂肪である。メタボリックシンドロームの疾患概念を提唱した松澤佑次氏(住友病院院長、大阪大学名誉教授)は、「内臓脂肪は、サッカーのミッドフィールダーのように、あらゆる生活習慣病にボールを蹴り出して、“最終ゴール”となる心筋梗塞や脳梗塞につながるように働く。さらに、内臓脂肪は、糖尿病、脂質異常、高血圧をスルーして、直接、血管にも影響する」と語る。