昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
過食に端を発するメタボを「贅沢病」と呼ぶことはないが、かつて、「痛風」はそう呼ばれていた。王侯貴族に特有の病気と見られていた時代さえあった。
痛風とは、「高尿酸血症」の発作症状だ。血液中に尿酸が増えて尿酸値が高い状態が長く続くと、血液に溶け切らなかった尿酸は結晶となって、足指などの関節に沈着する。それが何かの拍子で剥がれ落ちると急性関節炎(痛風)となり、関節の腫れと共に、風が吹いても痛いぐらいの強烈な痛みを起こす。
飽食の現代、誰もが痛風のリスクを抱えている
そもそも尿酸とは何だろう? 人間の細胞の核は、「核酸」という物質で構成されている。核酸は、食物の成分であるプリン体(プリン骨格を含む物質)を原料として合成され、遺伝情報を担うデオキシリボ核酸(DNA)や、アデノシン三リン酸(ATP)といったエネルギーの素にもなる。
用済みとなった核酸は代謝されるが、その際最終的に生成されるのが「尿酸」だ。尿酸の大部分は腎臓から尿中に排泄され、一部が尿細管から再吸収される。尿酸が過剰に生成されるか、あるいは排泄がうまくいかず、血中の尿酸が7mg/dLを超えると、高尿酸血症として病気の域に入ってくる。
(出典:『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版 2012年追補 ダイジェスト版』日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会編)
ヨーロッパでは、昔から痛風を起こす人は多い。尿酸値上昇と関係する飲酒や過食が原因とみられている。庶民の食事がまだまだ質素だった頃は、痛風は一定の階層以上に限られた病気だった。
ところが、肉食が広まり、スーパーマーケットで食品が手軽に手に入る現代は、誰もが痛風のリスクを抱える時代となった。日本もその例外ではない。日本で高尿酸血症が報告されるようになったのは戦後になってからだが、1970年代の高度経済成長期に急増し、今なお増え続けている。
高尿酸血症の患者は、男性が圧倒的に多く、30~50代の働き盛りを狙い撃ちする。女性の場合、女性ホルモン(エストロゲン)に尿酸排泄を促す作用があるからだ。ただし、女性ホルモンの分泌量が減る閉経後の60代以降になると、女性の尿酸も増えてくる。