昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
メタボとその予備軍は、約1400万人(2008年度)。経済財政諮問会議は、それを2020年度までに25%減らして、社会保障費などを抑制しようとの目算を立てている。たかがメタボ、されどメタボ健診。その重要性は揺らがないが、久山町に続いて、疫学の専門家からは、いくつか疑問点も上がっている。最も怖いのは、“痩せてさえいれば、生活習慣病があっても大丈夫”という誤解を生みそうなことだ。
高齢になるほどメタボが増える…わけではない?
滋賀医科大学アジア疫学研究センター特任教授の上島弘嗣氏はあるとき、「国民健康・栄養調査」(2008年)のデータを眺めていて「メタボリックシンドロームが強く疑われる者(*1)」の数字に目を留めた。
男性は、16.8%(40歳代)、から33.2%(70歳代)、女性も、4.8%(40歳代)から18.1%(70歳代)へと、年齢と共に右肩上がりに、メタボ人口が増加している。高齢になるほど、腹囲が増え、太るのか? それでは、メタボ対策は高齢者ほど重要だろうか?

だが上島氏は、疫学研究者としての経験から、これはおかしいのではないかと考えた。そこで、同調査の肥満者(BMI〔*1〕≧25)の割合を見てみると、男性は、35.9%(40歳代)、32.4%(50歳代)、29.4%(60歳代)、 25.5%(70歳以上)と、明らかな減少傾向にある。やせ者(BMI<18.5)は逆に増加する。女性は、若い世代の痩せ志向と女性ホルモン減少等の影響で、肥満者は、18.0% (40歳代)、21.1%(50歳代)、24.4%(60歳代)、26.8%(70歳以上)と増加している。
これらのデータから何が読み取れるのだろうか。上島氏は、「メタボリックシンドロームは、 内臓肥満が上流にあって、それを原因として、血圧上昇、脂質異常、高血糖が起こってくるという概念だが、高齢になると、それらの異常は、内臓肥満とは別の要因で増えてくる。そこに内臓肥満がたまたま重なった人だけが、メタボリックシンドロームと診断されているのではないか」と指摘する。
*2 Body Mass Index:体格指数=体重(kg)/身長(m)2
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