昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
ヒトは、その生涯の3分の1の時間を睡眠に費やしている。生活習慣病の代表がメタボリックシンドロームであるならば、覚醒中だけではなく、睡眠中の生活習慣も無関係なわけがない。実際に、メタボと睡眠障害には、切っても切れない深い関係がある。
中でも大きいのが、日本に200万人も潜在患者がいると言われる「睡眠時無呼吸症候群」。空気の通り道である気道が狭くなって、文字通り、就寝中に数秒から数分間呼吸が止まってしまう病気だ。欧米では圧倒的に肥満者に多いが、日本人の場合、それに加えて、顎の骨格が発達していない小顔の人もハイリスクとなる。
糖尿病は不眠を誘発し、不眠は糖尿病や高血圧のリスクを高める
中高年以降に、首の周囲や舌に脂肪が沈着してくると、気道を塞ぎやすくなり、睡眠中に、一定回数以上、無呼吸(10秒以上の呼吸停止)と低呼吸が見舞うようになる。呼吸停止は長くても数分程度なので、直ちに命に関わることはないが、睡眠の質は著しく低下して日中に激しい眠気を生じ、集中力も落ちてくる。
睡眠時無呼吸症候群は、様々な全身合併症の頻度が高く、高血圧、脳梗塞、心筋梗塞、不整脈などを引き起こすリスクは、健常者の3~4倍である。重症者では、心血管系疾患のリスクは5.2倍にも上るとされる(*1)。
メタボの人は、睡眠時無呼吸症候群を介して、不眠症が起こりやすくなる。また、糖尿病の人にも不眠は多い。糖尿病が進行すると、喉が渇いて多飲・多尿になる。さらに、服薬によって起こり得る急激な低血糖を恐れる余り、寝られないというケースもあるからだ。糖尿病患者のうち不眠症のある人の割合は、健常人のほぼ2倍とされる。
一方、睡眠不足も糖尿病の原因になる可能性が指摘されている。健常男性(18~27歳)11人を睡眠不足の状態(4時間睡眠×6晩)にしたところ、インスリン分泌には変化がないが、朝食後の血糖値が上昇して、耐糖能異常が悪化することが報告された(*2)。これ以外にも、睡眠不足が糖尿病のリスクとなるという研究報告は多数あり(下図)、睡眠薬を使ってでもきちんと睡眠を確保することで、血糖コントロールも良好になる。

*2 Lancet. 1999,354:1435-39.