昭和世代の庶民のヒーローと言えば、寅さんこと車寅次郎。『男はつらいよ』の主題歌にある、「目方で男が売れるなら、こんな苦労もかけまいに♪」というフレーズは、泣けます。
2008年4月に導入された「メタボ健診」では、何とも屈辱的なことに、40~75歳の中高年男女は、有無を言わさず“痛くもない腹”を測られることになりました。男であれ女であれ、その価値は体重やウエストの大小では決められません。が、「内臓脂肪に生活習慣病が重なると、多くの病気が起こる」というメタボリックシンドロームの本質を捉え、適切な対処をしなくてはなりません。
飽食への道をひた走ってきた日本人が直面する“新興国民病”、糖尿病(患者数890万人)に対して、日本人の“伝統的国民病”といえば、高血圧。患者数4300万人は、実に国民の3人に1人が相当する。
収縮期140以上、拡張期90以上が高血圧
2014年に日本高血圧学会から出された最新の「高血圧治療ガイドライン」によると、若年・中高年(75歳未満)の場合、収縮期(上)140mmHg未満、拡張期(下)90mmHg未満が正常域で、どちらか一方、あるいは両方が、これ以上であれば、高血圧と診断される(リラックスした状態で測定できる家庭血圧値では、135/85mmHg 以上を高血圧と診断)。一方、メタボリック・シンドロームの診断基準においては、血圧は収縮期130mmHg以上、拡張期85mmHg以上と、少し低め(高血圧学会基準の正常高値に相当)に設定されている。
分類 | 収縮期血圧と拡張期血圧(mmHg) | |
正常域血圧 | 至適血圧 | 120未満 かつ 80未満 |
正常血圧 | 120~129 かつ/または 80~84 | |
正常高値血圧 | 130~139 かつ/または 85~89 | |
高血圧 | 140以上 かつ/または 90以上 |
ところで昨春、日本人間ドック学会が、独自の“基準範囲”として「収縮期147mmHg以下、拡張期94mmHg以下」という血圧値を発表したことで生じた混乱は、今も続いている。
この “基準範囲”とは、人間ドック受診者150万人のうち、“健康人”の条件を満たした約1万~1万5000人の検査値から、両端を除いて全体の95%が含まれる範囲の幅を示したものである。
“健康人”の条件とは、がんや慢性肝/腎疾患の既往歴・入院歴がない、退院後1カ月以上経過している、薬物(高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの治療薬)を使っていない、BMI 値25未満、喫煙なし、飲酒1合/日未満…だ。
人間ドック学会の“基準範囲”は、これら健康人の95%の人たちの人間ドック受診時点の血圧の分布が、「収縮期147mmHg以下、拡張期94mmHg以下」の範囲に収まっていたという統計学的事実を示しただけで、病気の診断や将来的なリスクの評価、そして治療の目標のために出された値ではない。もちろん、“正常範囲”が広がったわけでもない。
だが、医療現場はなお混乱している。日本高血圧学会で、ガイドラインの作成委員長を務めた島本和明氏(札幌医科大学学長)は、「人間ドック学会の示した“基準範囲”を“正常範囲”と誤解して、服薬をやめたり、受診しなくなってしまう人が増えており、今後、脳卒中や心筋梗塞のリスクが増える恐れがある」と警鐘を鳴らす。
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