うつ病は、気分が良くなったり沈んだりという変化が起こる「抑うつ障害群」の1つで、働き盛りの30代から高齢者に多い。患者数は約100万人だが(図1)、受診していない人を考慮すると潜在的な患者はかなりの数に上ると推測される。こうした状況に歯止めをかけるべく、企業でのストレスチェック制度が始まったのが2015年12月。約1年がたった今、うつ病の現状と今後の治療の方向性について、医療法人社団慈泉会理事長で東邦大学薬学部客員教授の渡部芳徳氏に聞いた。
うつ病の主流は重症から軽症へ、薬物療法は多剤併用から減薬へ
最近のビジネスパーソンに多いうつ病は、どのようなタイプなのでしょうか。

渡部 従来は、仕事をしすぎた中高年が、ある時燃え尽きて起きるうつ病が主流でした。原因がはっきりしないまま疲れがたまって集中力が落ち、何をやっても覇気がない状態が続きます。抗うつ薬を使って休養すれば回復しやすいのに、「責任があるから」と休もうとしません。かといって出勤しても仕事の効率が上がらない、これが従来のうつ病の典型です。
一方で、企業の仕組みが年功序列から成果主義に変わってきた現在、増えているのは軽症のうつ病です。
これは一種の適応障害とも言えるもので、職場と本人の能力とのマッチングが悪いために生じます。
以前、入社まもなく重いノルマを課された新入社員を診たことがあります。挫折を知らないまま大学を卒業した優等生が、いきなり無茶な仕事を頼まれてうまく対処できずに、泣いて眠れず気分が落ち込んでしまう状況でした。本人の訴えは、不眠、憂うつなど、うつ病に見えるものばかりです。しかし、その人には薬を出さず、カウンセリングで話を聞くだけで終わりました。聞けばその人の職場は、同期入社の社員も泣くほどの理不尽な状況にあったそうで、こうした環境では誰だって気持ちがふさぐのは当然だったからです。典型的なうつ病と違って、このように原因が明確な軽症例が増えています。