患者も、予備群も、それぞれ1000万人存在すると推計される糖尿病。早期に治療を始めるのが望ましいが、食事の後に血糖が急上昇する「血糖値スパイク」を起こしている人でも、健康診断では異常なしと判定されることが少なくない。危険な食後高血糖が見逃されてしまう理由や、糖尿病の治療、血糖変動をモニタリングするシステムについて、東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科教授の西村理明氏に聞いた(本記事では、糖尿病患者の多数を占める2型糖尿病について取り上げます)。
「食後高血糖」は普通の健康診断では見つからない
日本には、糖尿病の患者が約1000万人、その予備群も約1000万人いるといわれます。一般的な健康診断で異常がなければ安心していてよいのでしょうか。
西村 現在、健康診断では、空腹時血糖値とHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を調べる血液検査が主流です。血糖値とは、「血液1dL中にブドウ糖が何mg含まれるか」という濃度を示す数値で、空腹時血糖値は「食後10時間以上過ぎた状態の血糖値」を指します。一方、HbA1cは「過去1~2カ月の血糖値の平均を反映する数値」です。空腹時血糖値が126mg/dL以上、あるいはHbA1cが6.5%以上だと、「糖尿病の疑いあり」と判定され、必要に応じて再検査を受けることになります(*1)。
この2つの数値は糖尿病を診断する上で大切な検査ですが、大きな問題点もあります。それは、食後の血糖値が急激に変動する「血糖値スパイク」の存在を把握できないことです。空腹時血糖値では、食後の血糖値がどのくらい跳ね上がるかを把握することはできません。HbA1cからも、食後の血糖値上昇を予測するのは困難です。
実は、糖尿病の診断基準では、空腹時血糖値だけでなく、食後高血糖も重要視しています。HbA1cや空腹時血糖値が正常でも、食後高血糖(後述する「ブドウ糖負荷試験」で200mg/dL以上)が複数回認められれば、それだけで糖尿病と診断されるのです。そのため、通常の健康診断で異常がないから大丈夫、と過信するのは禁物です。
「血糖値スパイク」とは何なのでしょうか。どのような弊害があるのか教えてください。
西村 食後に血糖値が急上昇して、また下がることを「血糖値スパイク」と呼んでいます。当大学で研究しているデータ(図1)を見ながら説明しましょう。これは1日の中で血糖値がどう変動するかを、糖尿病の人の普段のHbA1cの値ごとに比較したものです。例えば血糖値が少し高めの人(HbA1c7%未満)は、普段は100mg/dLあたりを推移しているのに、食後だけ血糖値が150 mg/dLくらいまで上がっています。もっと血糖値が高い人(HbA1c9%以上)になると、150 mg/dLから300 mg/dLへと上昇し、大きな山なりのカーブを描いています。HbA1cが高い人ほど、食事前の血糖値(空腹時血糖値)と食後血糖値の差は広がっていくのです。