便秘は女性がなるもの、便秘で死ぬわけがない…。そんなふうに考えている人もいるのでは。だが、高齢になると男性にも便秘が急増し、トイレでいきみすぎて不整脈から心臓発作を起こすこともある。「たかが…」とあなどれない便秘の怖さや、続々と発売されている新しい便秘薬の最新事情について、慢性便秘症診療ガイドラインの作成にも関わった鳥居内科クリニック院長の鳥居明氏に聞いた。
便秘に悩む人は、加齢に伴い男女ともに増えていく
お通じが何日なければ便秘だというような、便秘の定義はあるのでしょうか。
鳥居 従来は「3~4日排便がない場合」というふうに、排便の頻度によって慢性便秘(以下、便秘)(*1)かどうかを判断していました。しかし、毎日排便があっても、残便感があって不快に感じる人もいます。反対に、1週間も排便がないのに元気な人もいて、排便の頻度で便秘かどうかは決めることが困難でした。そこで、2017年に作成された「慢性便秘症診療ガイドライン2017」(日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会)では、便秘の定義を「本来排出すべき便を、十分な量、かつ快適に排出できない状態」とし、うまく便を出せない「排出障害」をもって便秘と呼ぶように変わりました。排便頻度に限らず、便が出にくい状態を幅広く考えるようになったのです。
便秘は女性に多いといわれますが、実際はいかがですか。
鳥居 若いころは男性より女性に多いのが便秘の特徴ですが、図1の通り、年齢を重ねるほど男女ともに便秘を訴える人は増加します。高齢になると腸の動きが悪くなり、お腹に力が入らず便をうまく出せないので、便秘になりやすいのです。中高年になると男性にも増え、80歳を過ぎると男性が上回るようになります。

加齢以外に、便秘の原因となるのは何でしょうか。
鳥居 原因によって、便秘は表1のようなタイプに分類されます。一番多いのは、加齢のほか、運動不足や不規則な食生活、水分や食物繊維の摂取不足など、生活習慣が深く関与する「機能性便秘」です。体質も関係しますし、ストレスによる過敏性腸症候群(*2)で便秘をきたすこともあります。
それ以外にも、腸そのものに別の病気があって排便できない「器質性便秘」や、全身の病気の一症状として起こる「症候性便秘」、他の病気の治療薬の副作用で起こる「薬剤性便秘」などが見られます。
機能性便秘 |
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一番多いタイプの便秘。運動不足や食生活の乱れなどの生活習慣や、加齢がもとで、大腸の働きに異常が生じて起こる |
器質性便秘 |
腸そのものの病気があるときに、便の通過が物理的に障害されて起こる(大腸がんなど) |
症候性便秘 |
パーキンソン病やレビー小体型認知症のような神経疾患、糖尿病、女性に多い甲状腺機能低下症など、全身の病気の症状の1つとして起こる |
薬剤性便秘 |
別の病気の治療薬の副作用で便秘になる。抗うつ薬やオピオイド系鎮痛薬、風邪薬に多い抗ヒスタミン薬や、咳止めのリン酸コデインなどが代表的 |
*2 過敏性腸症候群は、下痢、便秘、腹痛など、さまざまな症状によって日常生活に支障をきたす病気。胃腸に明確な異常(器質的異常)がないのに、機能上の異常が生じる。