生命維持に欠かせないホルモンの1つ、甲状腺ホルモンの分泌が減って起こる「甲状腺機能低下症」。その代表である橋本病は、症状がなかなか現れず、症状が出ても更年期障害に似ているために見逃され、発見が遅れやすい。悪化して心不全などを招かないようにするためにはどうすればいいか。早期発見のポイントや検査・治療の進め方について、三井記念病院内分泌内科科長の森典子氏に聞いた。
甲状腺は全身の代謝をコントロールする「縁の下の力持ち」
甲状腺はどのような特徴のある臓器なのでしょうか。

森 甲状腺は、首の前面でのど仏の下にある、蝶のような形をした臓器です。重さ20g、4cmほどの小さな組織でありながら、人が生きていく上で欠かせない「代謝」を司る、甲状腺ホルモンを作っています。
甲状腺ホルモンには、「トリヨードサイロニン(T3)」と「サイロキシン(T4)」という2つの種類があり、昆布に豊富に含まれるヨードを原料として作られています。これらのホルモンは、以下の3段階のステップを経て甲状腺から分泌されています(図1)。
血液中の甲状腺ホルモンが不足すると、まず(1)脳の視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が出されます。その刺激により、(2)下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が放出され、(3)TSHが甲状腺に作用して甲状腺ホルモンが生成・分泌され、血流に乗って全身に送られます。
甲状腺は、全身の代謝をコントロールする「縁の下の力持ち」のような存在です。甲状腺機能の異常、つまりホルモン分泌に支障が生じると、その影響は全身に現れるようになります。