社会問題として取り上げられるほど、増加の一途をたどる糖尿病。厚生労働省がまとめた2012年「国民健康・栄養調査」によれば、糖尿病が強く疑われる人は約950万人にものぼり、新薬開発への期待が高まるばかりです。
2014年4月以降、従来の薬とは身体に働きかける仕組みが異なる「SGLT2阻害薬(ナトリウム/グルコース共輸送体〔SGLT〕2阻害薬)」が発売ラッシュを迎え、患者・医師の注目を集めています。 今回は、糖尿病治療の最前線に立つ、聖路加国際病院内分泌代謝科医長の門伝昌己氏に、SGLT2阻害薬を中心とした最新の治療と今後の展望についてお話をうかがいました(本記事では、糖尿病患者の大多数を占める、2型糖尿病について述べます)。
医師も期待するSGLT2阻害薬。その理由は、薬が身体に作用する仕組みにある
2型糖尿病にはたくさんの種類の治療薬がありますが、今年4月から、新しい治療薬「SGLT2阻害薬」が相次いで発売されました(表1)。この薬の注目すべきポイントは何でしょうか。
門伝 SGLT2阻害薬の大きな特徴は「身体に作用する仕組みが従来の薬と違う」という点です。糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの不足や働きの低下などによって、細胞がブドウ糖をエネルギーとしてうまく取り込めず、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が上がり、全身の血管や細胞を傷つけてしまう病気です。2009年に発売されたDPP-4阻害薬(*1)をはじめとする糖尿病の経口薬や注射薬の多くは、「インスリンを出させる」あるいは「インスリンの働きを高める」ことを目的とした薬でした。これに対し、2014年4月以降、各社から発売されたSGLT2阻害薬は、インスリンを介さない、つまりアプローチが全く違う薬なのです(図1)。
製品名 | 一般名(成分名) | 製造元・販売元 | 発売時期 |
スーグラ | イプラグリフロジン | アステラス製薬 | 2014年4月 |
寿製薬 | |||
MSD | |||
フォシーガ | ダパグリフロジン | ブリストル・マイヤーズ | 2014年5月 |
アストラゼネカ | |||
小野薬品工業 | |||
ルセフィ | ルセオグリフロジン | 大正製薬 | 2014年5月 |
大正富山医薬品 | |||
ノバルティスファーマ | |||
デベルザ | トホグリフロジン | 興和 | 2014年5月 |
興和創薬 | |||
アプルウェイ | サノフィ | 2014年5月 | |
カナグル | カナグリフロジン | 田辺三菱製薬 | 2014年9月 |
第一三共 | |||
未定 | エンパグリフロジン | 日本イーライリリー | 承認申請中 |
日本ベーリンガーインゲルハイム |
通常、ブドウ糖は血中を巡った後に腎臓で濾過されていったん尿中に排出され、SGLT2やSGLT1というグルコース輸送担体(糖を運搬するタンパク質)により再び血中に吸収されます。この機能を阻害して、糖をそのまま尿と共に体の外に出してしまうのがSGLT2阻害薬です。一般的にインスリンの助けを借りなくても1日60g程度は腎臓から尿糖として糖分を出してしまうので、ある程度のダイエットになるということです。
糖尿病では多量の尿糖が排泄されるため、尿細管でのSGLT2が多くなり、過剰に糖を再吸収し高血糖を助長しますので、SGLT2を阻害することは理にかなっているともいえます。 このメカニズムは今までの薬にはなかった着眼点で、われわれ医師も大変注目しています。働きかける対象が腎臓であるため、膵臓への負担も少なく、インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)が改善されるという利点もあります。