てんかんは子どもの病気だと思われがちだが、実は高齢者にも少なくない病気の1つだ。高齢者てんかんの場合、発作の特徴が小児とは異なるため、認知症と間違われて発見・治療が遅れやすいのが難点となる。高齢者てんかんに気づくポイントは何か、どのような治療で発作を抑えるのか、東京女子医科大学脳神経外科てんかん外来担当(助教)の久保田有一氏に聞いた。
加齢によって起こるてんかんは、けいれんを伴うとは限らない
てんかんは高齢になってから発症するケースも多いと聞きましたが、どのくらいの頻度なのでしょうか。
久保田 てんかんは、子どもが突然けいれんを起こし、泡を吹いて倒れるような病気だと思われがちですが、実は65歳以上でも多く見られます。元気に暮らしている高齢者がてんかんになる割合は約1%、100人に1人と推定されます。さらに、一般病院に入院する高齢者に限れば約10%、10人に1人がてんかん発作を起こしているという報告もあります(*1)。年をとれば誰でも、入院中の高齢者であれば特に、いつてんかん発作が起きても不思議ではありません。

高齢者のてんかんは、どのようなメカニズムで起こるのですか。
久保田 小児のてんかんは、脳が成熟していく過程で発作を起こします。高齢者はその反対で、成熟した脳が年をとり、脳の神経細胞が脱落していく過程で起こります。側頭葉の内側にあり、記憶を司る「海馬」にてんかんの火種が出ることが原因で、それが発作につながるのではないかと言われています。認知症の原因もこの周辺にありますが、認知症はその部分の「機能が低下」して起こるのに対し、てんかんは脳神経細胞の「電気回路がショート」するようなイメージです。
高齢者てんかんの原因は何でしょうか。遺伝や体質など、加齢以外の素因も関係しますか。
久保田 高齢者てんかんの多くは、脳卒中などの脳血管障害や頭部の外傷、脳腫瘍といった明確な原因があります。その場合は、突然のけいれんで倒れるのが特徴です。ところが、特定の原因がなく、加齢によって起こると思われるてんかんも少なくありません。その割合については諸説あり、図1のように、約半数のてんかんは脳の器質的な病変がないとする報告もあります。このタイプはけいれんを伴わないので、発作に気づきにくいのが問題です。今回は高齢者てんかんのうち特に発見が遅れやすい、加齢からくるであろうてんかんについてお話しします。
加齢からくるてんかんは、遺伝とはかかわりなく、年をとれば自然発生的に誰でもなる可能性があります。最近では、高血圧や脂質異常症、糖尿病との関連も指摘されていますが、いずれも加齢によって増える病気なので、てんかんと関係があるとは言い切れず、その点はまだ明らかになっていません。なお、「加齢からくる」といっても、加齢現象には個人差があります。このタイプのてんかんが増えるのは65歳以降ですが、早ければ40代、50代で発症する人もいます。