B型肝炎は、B型肝炎ウイルスに血液や体液を介して感染することによって起こる病気です。国内のB型肝炎ウイルス感染者は、発病していない人も含めて110~140万人と推測されています。
出産時や幼少時にB型肝炎ウイルスに感染すると、やがて慢性肝炎を発症し、一部はC型肝炎と同様に、肝硬変や肝臓がんを引き起こします。一方、成人で感染すると全身倦怠感、悪心・嘔吐、褐色尿、黄疸などの急性肝炎を引き起こしますが、ほとんどは一過性で治癒すると言われてきました。ところが近年、約1割が慢性肝炎に移行するヨーロッパ型のB型肝炎ウイルスが、若年層に広がってきました。新薬の効果やワクチン義務化などの話題とともに、B型肝炎の最新情報を、東京大学医学部消化器内科教授・小池和彦氏に聞きました。
最近は、ヨーロッパ型のB型肝炎ウイルス感染が増えている
B型肝炎ウイルスの感染について、最近の傾向を教えてください。

小池 B型肝炎の主な感染ルートは、出産のときに母親から感染する母子感染や幼少時の血液などを介した感染、そして性行為を通じて感染する性感染です。B型肝炎ウイルスに感染すると、慢性肝炎になる人と急性肝炎になる人に分かれますが、慢性肝炎になるのは、一般的には子どもの頃か乳児の頃に感染した人です。ただ、感染防止対策が進んだため、近年、母子感染はどんどん減っています。
一方、急性肝炎になるのは、主として思春期以降に感染した人です。この15年くらいの傾向ですが、元々日本に存在したウイルスとは遺伝子タイプが異なる、ヨーロッパ型のB型肝炎ウイルスの感染が増えています。今やヨーロッパ型は大人の急性B型肝炎の7~8割を占めます。このタイプは多くの場合、急性肝炎を起こしてもその後は自然に治癒するとされていますが、約10%は慢性化するので要注意です。
B型肝炎の治療を変えた「核酸アナログ製剤」
C型肝炎の治療が飛躍的に進化していることをお聞きしましたが(参考記事「C型肝炎は飲み薬で治す時代へ」)、B型肝炎についてはいかがですか。
小池 C型肝炎と同様に、B型肝炎でも従来は皮下注射のインターフェロンを主体とした治療が行われていました。2006年から使われるようになったのが、経口薬の核酸アナログ製剤です(下表)。これは、B型肝炎のために新たに開発されたというより、HIV感染症の治療薬の一部が、B型肝炎に効くとわかってできてきた薬です。B型肝炎ウイルスは、逆転写酵素(*1)を阻害すれば増殖を抑えられるという特徴がHIVウイルスに似ているため、これを利用した薬が開発されるようになりました。
ペグインターフェロン | 核酸アナログ製剤 エンテカビル(商品名バラクルード)/テノホビル(商品名テノゼット) | |
投与経路 | 皮下注射 | 内服 |
---|---|---|
作用の仕組み | 抗ウイルスタンパクを誘導したり、免疫を賦活化する作用(ウイルスを体内から追い出したり死滅させる機能を活性化する)がある | ウイルスが増殖するのを直接阻害する |
治療期間 | 24~48週間に限定 | 原則として長期間 |
薬剤耐性の有無 | なし | まれにある(*2) |
副作用が起こる頻度 | 高い頻度で、多彩な副作用が起こる | 少ない |
催奇形性・発がんの可能性 | 知られていないが、妊娠中の投与は勧められない | 催奇形性や、長期に使用した時の発がんの可能性が否定できない |
妊娠中の女性への使用 | 原則として不可 | 危険性は否定できない(*3) |
*3 エンテカビルは危険性を否定することができないとされるが、テノホビルは胎児への危険性の証拠はないとされる。
日本肝臓学会『B型肝炎治療ガイドライン第2版』を改変
この記事の概要
