前触れもなく突然、片方の耳だけが聞こえなくなる「突発性難聴」。40代、50代を中心に年間3~4万人が発症し、原因は今なお不明とされている。現在のところ確立された治療方法はないが、ステロイド内服薬のほか、重症度によってさまざまな方法を組み合わせた治療が行われている。突発性難聴の特徴的な症状や、具体的な治療方法について、西横浜国際総合病院耳鼻咽喉科部長の河野敏朗氏に聞いた。
ある日突然、片方だけ聞こえが悪くなる突発性難聴
突発性難聴とはどのような病気なのでしょうか。
河野 突発性難聴は、文字通り、あるとき突然に耳の聞こえが悪くなる病気です。昨日まで普通に聞こえていたのに、朝起きたら急に聞こえにくくなっていたりします。ほとんどの場合、「何時ごろから聞こえなくなった」と言えるくらい、本人もはっきり自覚できます。ただし、難聴が軽度の場合は自覚するのが遅れることもあるようです。
突発性難聴で聴力がどのくらい低下するかは人によってさまざまです。軽い難聴からほとんど聞こえない状態まで、重症度は4段階に分けられています(表1)。
グレード | 初診時の純音聴力 |
グレード1 | 40dB未満(ささやき声) |
グレード2 | 40dB以上、60dB未満(静かなオフィスの中の音) |
グレード3 | 60dB以上、90dB未満(普通の会話~地下鉄の車内の音) |
グレード4 | 90dB以上(音の大きな工場の中の騒音) |
※純音聴力とは、その人に聞こえる最も小さな音のレベルを指す。デシベル(dB)は音圧のレベルを指す単位で、騒音の表示にも使われている。
(参考:星野知之. 総合総合研究報告 厚生省特定疾患急性高度難聴調査研究班平成10年度研究業績報告書. 1999;1-4.)
難聴以外にも、耳鳴りや耳の閉塞感、めまいなどの症状も現れることがあります。めまいを感じる人は重症度が高いほど多く、特にグレード4の人に見られます。
原因は不明、いつ誰がなってもおかしくない病気
高齢者に多い、「耳が遠くなる」現象(加齢性の難聴)とはどう違うのですか。
河野 加齢性難聴と突発性難聴は、まず症状の出方が異なります。加齢性難聴の場合、半年、あるいは1年くらいかけて少しずつ聞こえにくくなりますが、突発性難聴は急に起こります。加齢性難聴は両側に生じるのに対し、突発性難聴は片側の耳だけが悪くなる点も特徴です。
また、突発性難聴では250~500Hz(ヘルツ)くらいの周波数(低い音)が聞こえにくい人もいるし、4000Hz、8000Hzくらいの周波数(高い音)が聞こえにくい人や、全体的に聞こえにくい人もいます。一方、加齢性難聴では、高い周波数(高い音)から聞こえにくくなります。
突発性難聴を起こす原因は何でしょうか。
河野 突発性難聴の原因は、鼓膜のさらに奥にある「内耳」の血流障害やウイルス感染、ストレス、など諸説あり、実際のところまだ解明されていません。私の経験では、ストレスや疲れ、睡眠不足からくる患者さんが多いように感じます。
突発性難聴を起こす人には、例えば持病があるなど、何かしらの傾向はあるのでしょうか。
河野 持病の有無はあまり関係ないと思います。突発性難聴は、いつ誰がなってもおかしくない病気だと考えたほうがいいでしょう。
性差については、医療機関によっては男性に多いといわれますが、当院では男女比は半々程度です。年齢は、働き盛りの40代、50代に多い傾向がありますが、30代で発症することもあります。
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