著名人がパニック症で活動を休止するというニュースを耳にする機会がある。しかし、不測の事態が起きてドキドキして冷や汗をかくような経験は誰にでもあり、パニック症の何たるかを詳しく知らない人も多いのではないだろうか。今回は、どんな状況でパニック発作が起こり、どう診断・治療していくのか、認知行動療法の第一人者で、千葉大学医学部附属病院認知行動療法センター長の清水栄司氏に聞いた。
動悸、震え、息苦しさなどが突然現れ、強い恐怖に襲われる
パニック症とはどのような病気なのでしょうか。
清水 パニック症とは、予期せぬ突然の「パニック発作」から始まる病気のことで、さらなるパニック発作の出現を恐れたり、発作を避けるために行動を変えたりするようになった状態を「パニック症」と呼びます。10代、20代の若い人に多く、女性は男性の約2倍多いとされます。

パニック発作というのは、具体的にはどのような症状のことを言うのですか?
清水 パニック発作とは、動悸、発汗、震え、息苦しさなど、表1に示した13項目のうち4つ以上の症状が発作的に始まるものを言います。突然胸がドキドキしたり、ハアハアと息苦しくなったりして、「このまま死ぬのではないか」と不安になるというのが典型的なパターンです。
表1 パニック発作とは
強い恐怖や不快感が高まり、数分以内にピークに達する。はっきりと区分できる時間で、その間に以下の13項目の症状のうち4つ以上が突然出現すればパニック発作と考えられる。
動悸、心拍数の増加
発汗
震え
息切れ感、または息苦しさ
窒息感
胸痛、または胸部の不快感
吐き気、または腹部の不快感
めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
悪寒、または熱感
異常感覚(感覚麻痺、またはうずき感)
現実感の喪失、または離人感(自分ではない感じ)
気が狂うかもしれないという恐怖
死ぬかもしれないという恐怖
(DSM-5より)
発作は数分でピークを迎え、20~30分、長くても1時間ほどで治まります。患者さんにとっては長く感じるのですが、そう長く続く発作ではありません。心臓発作のようにも感じられますが、心臓を検査しても異常は見つかりません。
パニック発作自体は10人に1人が経験すると言われ、それなりの頻度で起こります。でも、パニック発作を1回起こしただけでパニック症と診断されるわけではなく、表2のような診断基準があります。 パニック症を経験するのはおよそ100人に1人と言われています。
表2 パニック症の診断基準
A
予期せぬパニック発作が繰り返し起こる
B
少なくとも1回の発作後1カ月間(またはそれ以上)、以下の1つ(またはそれ以上)が続く
1.
予期不安がある
2.
回避行動がある(発作を回避する行動を起こす)
C
医薬品や薬物、他の病気(例:甲状腺機能亢進症、心肺疾患)によるものではない
D
他の精神疾患ではうまく説明できない
(DSM-5より)