ちょっと転んだだけで骨がポキッと折れた、背中が丸くなってきた、身長が低くなった…高齢社会が加速する今、こんな悩みをあちこちで耳にするようになった。その原因の1つが骨粗しょう症(骨粗鬆症)。骨密度は20~30歳頃をピークに下がっていくため、早めの対策が必要だ。骨粗しょう症をどう治療し、生活習慣をどう見直せばいいのか、北里大学北里研究所病院整形外科統括部長の金子博徳氏に聞いた。
骨粗しょう症は、「いつの間にか骨折」の主犯格
骨粗しょう症になると、どうして骨がスカスカになってしまうのでしょうか。
金子 骨が作られる過程には、図1のように2つの主人公がいます。骨の表面を壊す「破骨細胞」と、壊れたところを修復する「骨芽細胞」です。人間には、体のバランスを保とうとするフィードバック機構が備わっていて、骨がジャンジャン破壊されると、修復する細胞もがんばって働こうとします。こうして骨が壊される(=骨吸収)・修復される(=骨形成)という新陳代謝を、骨代謝と呼びます。
女性は、閉経期を迎えると女性ホルモンであるエストロゲン(*1)の分泌が減る影響で、骨代謝のバランスが崩れ、骨の修復が追いつかなくなります。すると骨がスカスカになって骨の密度が下がり、わずかな衝撃でも骨折してしまいます。このように、骨密度が下がり、なおかつ骨折リスクが高い状態が「骨粗しょう症」です。
骨粗しょう症は、閉経期を過ぎた女性の多くが発症しますが、高齢になると男性にも起こります。男性の場合は、ホルモンの影響より、腎機能の低下、糖尿病などの病気、ステロイド薬の使用などが原因になる傾向があります。
骨折する前に表れる自覚症状はないのでしょうか。
骨粗しょう症が原因で骨が変形したり、腰痛が出現することはあります。しかし、病院で骨密度の検査を受けたり、骨折でもしない限り、通常は自分が骨粗しょう症であることに気づきません。そのため、早くから対処しない人が多いのが問題になってきています。
転んで骨折するだけでなく、無意識のうちに骨折しやすいことも骨粗しょう症の特徴です。高齢になって背中が丸くなるのは、実は、背骨の椎体(*2)がスカスカになってつぶれる圧迫骨折を起していることが多いからです。こうして起こる「いつの間にか骨折」は、無症状で起こることが多くあります(図2)。
骨粗しょう症からくる骨折は、脚のつけ根(大腿骨近位部)でもよく見られます。脚のつけ根の骨折(大腿骨近位部骨折)は、転んで起こることもあれば、少しひねった程度で折れることもあります。手をついた拍子に手首がパキッと折れる骨折(橈骨遠位端骨折)も同様です。
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