死を待つしかない「恐怖の病気」から、薬でウイルスを押さえ込める「慢性疾患」へと、大きく変わりつつあるエイズ。一方、日本では年間約1500人もの新規HIV感染者・新規エイズ患者が報告されており、現状は、決して楽観視できない。世界で初めてエイズ患者が報告されてから35年が経った今、HIV感染症の治療はどう変わったのか、HIV感染症などを専門とする新宿東口クリニック院長の山中晃氏に聞いた。
HIVは薬で抑え、長生きできる時代になった
HIVとはどのようなウイルスですか。HIV感染から、どのようにエイズに至るのかについても教えてください。
山中 人の免疫を司る細胞には白血球、リンパ球などがあり、その中にCD4という細胞があります。HIV(ヒト免疫不全ウイルス:Human Immunodeficiency Virus;HIV)は、CD4細胞の中にもぐりこんで増殖し、CD4細胞を壊していきます。
CD4細胞が壊されて免疫力が低下すると、普段なら体に害のないカビやウイルスにも抵抗できなくなります。こうして起きる感染は「日和見感染」と呼ばれ、ニューモシスチス肺炎(*1)や、口の中にカビが生える口腔カンジダ症などを発症しやすくなります。この状態がエイズ(後天性免疫不全症候群:Acquired Immune Deficiency Syndrome;AIDS)です。
感染経路として圧倒的に多いのは、性的接触です。新規HIV 感染者は、同性間(男性同性愛者)の性的接触だけで7割以上を占めます(下図)。
感染経路のカギは、白血球があるかどうか。HIVウイルスが入り込む先が「白血球の中にあるリンパ球のCD4細胞」であることから、血液や体液など、白血球がある場所に接触して感染します。言い換えれば、白血球が存在しない唾液や汗、涙を介して感染することはありません。