5月31日は世界禁煙デー。禁煙推進に向けた取り組みが功を奏し、日本の喫煙率はようやく19.3%まで下がってきた(2016年「全国たばこ喫煙者率調査」)。その一方で、喫煙を主な原因とする慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)は、今後も増加することが確実視されている。COPDとはどのような病気でどう治療するのか、東京大学医学部附属病院呼吸器内科科長の長瀬隆英氏に聞いた。
COPDは「肺の生活習慣病」
COPDとはどのような病気なのでしょうか。

長瀬 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は「Chronic Obstructive Pulmonary Disease」の略で、タバコの煙などの有害物質を長期間吸い込むことによって、肺の炎症や破壊が起こる病気です。以前は「肺気腫」や「慢性気管支炎」などと呼ばれていましたが、今はまとめてCOPDと呼ばれています。喫煙や受動喫煙という生活習慣によって起こるため、「肺の生活習慣病」という異名を持ちます。
COPDの主症状は、咳・痰・息切れの3つです。有害物質の影響で肺の組織が少しずつ壊れていくため、息を吐き出す力が弱くなり、気管支の炎症によって咳や痰が出てきます。これらの症状は、いずれも簡単に自覚できるように見えますが、発症早期の場合、意外と気づかないのが難点です。その理由は、車社会の発達や、バリアフリー化です。現代社会は、階段を上がらなくて済む、歩かなくて済むという生活スタイルになっているため、初期症状の「労作時の息切れ」を自覚する機会が減り、早期発見が難しくなっているのです。
便利な生活が病気を気づきにくくするとは皮肉なものですね。COPD はどのくらい増えているのですか。
長瀬 COPDは世界規模で増加しています。世界保健機関(WHO)によると、2030年には世界の死因の第3位に上がることがほぼ確実視されています(表1)。COPDは高齢化と喫煙歴、この2つの要素によって進行するため、高齢社会を迎えた日本では今後も増えると予測されます。喫煙率は徐々に下がってきましたが、喫煙してからCOPD発症までにかかる年月は30~40年。そのため、数十年先まではCOPDによる死亡が増えると予想されています。
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