幕末の高杉晋作や小説家の夏目漱石、俳人の正岡子規など、結核を患った歴史上の人物は数多い。そのためか、結核は一昔前の病気というイメージが強い人も少なくない。だが、今なお年間約1万8000人が新たに結核を発病していることをご存じだろうか。しかも、その約1割にあたる1800人以上が毎年亡くなっている(*1)。なぜ結核はなくならないのか、身近で集団感染が起きたらどうすればいいのか、国立国際医療研究センター病院呼吸器内科の高崎仁氏に聞いた。
結核は免疫力が高いと感染しにくい 感染しても発病するのは1割
結核は過去の病気だと思っていたのに、今でも集団感染が起こることがあります。どのような病気なのでしょうか。
高崎 結核とは、結核菌という細菌が体の中に入って増えることで引き起こされる病気で、空気感染(*2)によって広がります。患者が咳やくしゃみをすると、しぶきとともに排出された結核菌が空気中を漂い、それを吸い込むことで感染します。手を握る、食器などの物を介して感染することはありません。
結核と同じく空気感染で広がる麻疹(はしか)は、抗体を持たない人が麻疹ウイルスを吸い込むと、ほとんどの人が感染し、発病してしまいます。これに対し結核は、麻疹よりも感染力が弱く、抗体を持たない人が結核菌を吸い込んだとしても、感染するかどうかはその人の免疫力(抵抗力)次第。強ければ菌を退治でき、弱ければ感染しやすくなります。
どのような症状があれば結核の可能性がありますか。
高崎 結核の特徴は長引く咳で、発熱や痰、血が混ざる血痰も伴います。麻疹ほど感染力が強くないものの、咳がたくさん出るときは感染力が高く、咳とともに大量の菌をばらまきます。何となくだるい、食欲はあるのにやせてしまう、体調が悪いが休むほどではない、寝汗がひどい、といった軽い症状しか出ないこともあります。ポイントは、症状の重さより、咳が長引いているかどうか。2週間以上咳が続くなら受診が必要です。

また、結核は潜伏期間が長いことも特徴です。数日で発病するインフルエンザと違って、発病するまで、短くても約半年かかります。特に発病しやすいのは感染後2年以内ですが、若いころに感染し、高齢になってから発病する人もいます。発病する人よりも発病しない人の方が多く、感染者全体で、発病するのは約1割のみ。9割は発病しないまま一生を終えます(図1)。
*2 空気感染:細菌やウイルスなどの病原体を含む軽くて小さな粒子(飛沫核:直径5μm以下)が空気中を漂い、それを吸い込むことで起こる感染。