むずむず脚症候群は、夜間にむずがゆいような違和感が脚に生じ、動かしたい衝動にかられる病気だ。この症状のため睡眠が妨げられて日常生活に支障が出るようになり、子どもは注意欠如多動性障害(ADHD)、大人は脊柱管狭窄症や下肢静脈瘤、うつ病など、他の病気と間違えられることが多い。むずむず脚症候群に気づくポイントは何か、どんな治療で症状を抑えるのか、久米クリニック(名古屋市瑞穂区)院長の久米明人氏に聞いた。
脚がむずむず、ほてる…じっとしていられず「不眠」を招く
むずむず脚症候群はどんな症状が現れる病気なのでしょうか。
久米 むずむず脚症候群は、脚がむずむずする、うずく、ほてる、かゆいなどの症状(図1)が出て脚をじっとしていられず、脚を動かしたくなる病気です。この症状は夜間やリラックスしているときに出やすく、動かすと楽になるという特徴があります(表1)。脚を安静にしていられないことから、欧米では「レストレスレッグス症候群(Restless legs syndrome)」と呼ばれます。

脚をじっとしていられない
その症状がリラックス時に出る
脚を動かすと楽になる
夕方から夜間にかけて発生・悪化する
このほか、家族歴や、治療薬(ドパミン作動薬)で症状が軽減するか、睡眠時の周期性四肢運動があるかなどの特徴も診断の補助とされる。(日本神経治療学会治療指針作成委員会編集「標準的神経治療:Restless legs症候群」を一部改変)
多くの場合、夜間に症状が出るので、患者さんが一番困るのは、睡眠が妨げられることです。日中に症状が出る人の場合は、飛行機などに長時間乗るのがつらいということもあります。
なぜ脚を動かさずにいられなくなるのか、原因を教えてください。
久米 原因は「脳の鉄欠乏」です。脳で鉄が欠乏すると、脳で分泌されるドパミンというホルモンの日中の産生量が大きく増えます。一方、夜間にはドパミン産生が少なくなるので、むずむず脚症候群の患者さんは産生量の差が激しくなります。ドパミンには余計な感覚や興奮を脊髄でブロックする役割がありますが、その作用が日中と比べて夜間に急に弱まるために、ささいな感覚でも大きく感じられ、脚の違和感で脚を動かさずにいられない衝動にかられます。
脳の鉄が不足する背景には、体質が関係しています。通常、食物から摂取した鉄は消化管で吸収され、血中から脳に取り込まれます。そのプロセスに個人差があり、健康診断では貧血に該当しないのに、脳に鉄が入り込みにくいタイプの人がいるのです。この体質は遺伝しやすく、当院を受診するお子さんの約30%は親やきょうだいもこの病気を持っています。
なお、むずむず脚症候群の患者さんでも、ドパミンは明け方から増え始めることが明らかになっており、むずむずする症状は朝の5時半ころから消えると言われています。睡眠中に気道が塞がって呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群(*1)では熟眠感が得られませんが、むずむず脚症候群では、朝方に2時間でも熟睡すれば翌日の眠気が出にくいことも分かってきました。