平成25年国民生活基礎調査によると、65歳以上で要支援となった人の原因のトップは関節疾患だという。中でも「変形性関節症」は軟骨の摩耗によって関節に痛みが生じる、特に高齢者を悩ませている病気で、「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」(*1)の原因の1つでもある。
長生きをしても健康でなければ老後は楽しめない。消耗品である軟骨をどう維持するかで健康寿命が大きく変わるという。関節のトラブルを防ぐために、気を付けるべきことや、最適な治療法について、変形性関節症のエキスパートである、順天堂大学医学部整形外科主任教授の金子和夫医師に聞いた。
関節の痛み・腫れ、異変に気づいたら早めに受診を
なぜ骨が変形するのでしょうか。痛みや腫れのメカニズムを教えてください。
金子 変形性関節症は、40~60歳代で発症しやすい病気です。頻度が高いのは膝ですが、股関節や脊椎、指関節にも起こります。
変形性関節症による痛みのメカニズムには大きく分けて2つのタイプがあります。1つは骨と骨のつなぎ目にある軟骨がすり減ることによって痛みが生じるものです。軟骨は、骨への衝撃を和らげるクッションの機能を果たしています。軟骨には神経がないため、すり減ったとしても痛みはありません。けれども、骨には神経が張り巡らされていますので、軟骨が摩耗すると、軟骨に守られている骨へのストレスが増すことで、さらには骨が露出してこすれ合うことによって、痛みが生じます。
もう1つは、関節を包む滑膜(かつまく)が炎症を起こすタイプです。軟骨がそれほどすり減っていないのに痛む場合は、「滑膜炎」を起こしている可能性があります。滑膜炎が強いと、滑膜から分泌される関節液が増えて関節に溜まることで腫れる「関節水症」になることもあります。
いずれの場合も、クッションである軟骨がすり減ることで骨がストレスを受けて変形し、同時に骨の一部がトゲのように増大する骨棘(こつきょく)(*2)を形成したりします。関節を曲げ伸ばしすると痛みが出て、さらに悪化すると安静時でもつらくなります。
*2 骨棘(こつきょく)とは、増殖してできたトゲ状の骨のこと。軟骨がすり減ると骨がストレスによって壊れてしまうため、骨を増やして強くしようとする反応性の現象によって形成される。