息切れやむくみなどが現れ、徐々に悪化していき、命を縮める「心不全」。生活習慣病を持つすべての人が予備軍であり、高齢化と相まって増加の一途をたどる病気の1つだ。心不全に対してどのような治療が行われるのか、心臓の負担を抑える予防のポイントは何か、九州大学大学院循環器内科学教授の筒井裕之氏に聞いた。

入院を繰り返しながら、心不全は徐々に悪化する
心不全とはどのような状態を指すのでしょうか。
筒井 心臓は全身に血液を送り、戻ってきた血液を肺に運び、酸素を取り込んだ血液をまた全身に送るという、ポンプ機能を担っています。それがうまく働かなくなるのが心不全です。日本循環器学会と日本心不全学会の定義によると、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とされています。
心不全の患者はどのくらいいるのですか。
筒井 日本の心不全患者の平均年齢は80歳近くで、多くは高齢者です。年間35万人が新たに心不全を発症しているとの予測があり、高齢化に伴ってさらに患者さんの数が増えることが予想されています(図1)。

心不全で入院した患者さんの約7%は亡くなりますが、90%以上は治療によって改善し、退院します。再び心不全が悪化すると、多くの場合は入院が必要になります。そうやって再入院を繰り返すのが心不全の特徴です。
今後さらに心不全の患者さんが増え、しかも1人が何度も入院を繰り返せば、医療機関での受け入れが難しくなっていくことが予想されます。そこでわれわれ医師が危惧しているのが、65歳以上の人口が30%を超える2025年に向けて起こり得る、「心不全パンデミック」(心不全で入院する患者の爆発的増加)です。そうなる前に、新たに心不全を発症する患者さんを少しでも減らし、心不全の悪化の予防にも努める必要があります。
入院と退院を繰り返すという、心不全が進む典型的なプロセスを教えてください。
筒井 心不全の発症と進行は4つのステージに分けられ、初期のステージAとBは「心不全予備軍」に当たります(図2)。ステージAは高血圧や糖尿病などの生活習慣病を持つ患者さんです。高血圧で約4300万人、糖尿病で約1000万人の患者さんがいるとされていますので、最も人数が多いのがステージAです。

そこに心臓の病気が起こってくるとステージBです。特に多いのは、心臓の筋肉に酸素を届ける太い動脈(冠動脈)の病気で、心筋梗塞や狭心症が代表例です。次いで、高血圧による心臓病(高血圧性心疾患)も多く見られます。これは心肥大といって、心臓が高い血圧の中で血液を送り出さなければならないために、心臓の筋肉が厚くなるものです。さらに、3番目に弁膜症、4番目に心筋症などが続きます(*1)。
ステージCに進むと心不全を発症するようになり、年間約20万人が入院すると推計されています。そしてステージDでは治療がいよいよ困難になります。
このような心不全の進行の様子は、がんとはかなり異なります。一般的に、がんは少しずつ、あるいは急に右肩下がりに悪くなり、入院したら退院が難しいこともあります。しかし、心不全は急に悪化したり、持ち直して退院したりと、予測不能な経過をたどるのです。