東洋医学で人体の内臓を示す言葉、「五臓六腑」。五臓とは肝・心・脾・肺・腎の5つを指すが、膵臓はそこに含まれないだけあって、日ごろ意識する機会の少ない臓器だ。しかし、ひとたび急性の炎症が起きると痛みは猛烈で、重症になれば死に至ることもある。急性膵炎はなぜ起こり、どう治療するのか、東京医科大学消化器内科学分野主任教授の糸井隆夫氏に聞いた。
“お腹のやけど”のような強烈な炎症を起こす急性膵炎
急性膵炎はどのような病気なのでしょうか。
糸井 まず、膵臓が果たす働きについてお話ししましょう。膵臓はお腹の中央から左後ろあたりに存在する、全長10~15cmの臓器です(図1)。主に2つの機能があり、1つめは、インスリンというホルモンを出して血糖を下げる「内分泌機能」。2つめは、膵臓の管(膵管)から消化酵素を含む膵液を出す「外分泌機能」です。ここでいう消化酵素には、炭水化物を分解するアミラーゼ、脂肪分を分解するリパーゼ、タンパク質を分解するトリプシンなどがあります。
急性膵炎は、膵液が膵臓自体を溶かしてしまう病気です。何らかの原因で膵液の流れが悪くなって膵管が閉塞すると、膵液は膵臓自体に向かいます。すると、膵液に含まれる酵素が膵臓や膵臓の周囲の組織を溶かし始めるのです。行き場がなくなった膵液は膵臓の外にもあふれ、血液中にも入り込みます。こうして起こる急性膵炎は“お腹のやけど”と言われるほど、ひどい炎症を起こします。
膵臓が炎症を起こす原因は何なのでしょうか。
糸井 原因は性別によって異なり、男性はアルコール、女性は胆石が第1位です(図2)。ベースにあるのは、食生活の欧米化です。脂っこいものを食べながらアルコールを過剰に摂取すると、それに対処するために膵液がたくさん分泌され、膵臓への負担が増します。