新型コロナウイルス感染症の症状として一躍有名になった、匂いの感じ方に異変が起こる「嗅覚障害」と、味の感じ方に異変が起こる「味覚障害」。鼻の病気や風邪、加齢などさまざまな原因から起こり、ガス漏れや食品の腐敗臭などに気づかなければ大事に至りかねない障害だ。嗅覚・味覚の低下を示すサインや検査・治療、そして新型コロナウイルスにおける特徴について、金沢医科大学医学部耳鼻咽喉科学主任教授の三輪高喜氏に聞いた。

嗅覚障害の原因は慢性副鼻腔炎、ウイルス、頭のケガなど
匂いを正常に感じられなくなる、「嗅覚障害」の原因は何でしょうか。
三輪 嗅覚障害には、匂いの感覚が弱って匂いを感じにくくなる「量的」な障害だけでなく、匂いの感じ方が変わってしまう「質的」な障害もあります。新型コロナウイルス感染症で起きた嗅覚障害については後ほどお話ししますが、一般的な嗅覚障害は、慢性副鼻腔炎、風邪(感冒)、頭や顔のケガ(外傷)が3大原因とされています(図1)。

一番多い原因である慢性副鼻腔炎では、鼻が詰まり、匂いが嗅細胞まで届かないために嗅覚が低下します(気導性嗅覚障害という)。
匂いのもとになる分子は鼻や口から入り、鼻の奥にある嗅細胞という細胞の粘膜表面にある繊毛にキャッチされ、電気信号に変わって最終的には脳の眼窩前頭皮質という場所に伝わります(図2)。ところが鼻が詰まると、鼻の奥にある、嗅裂(きゅうれつ)と呼ばれる嗅細胞の集まる場所の隙間(約2mm)が閉じてしまい、匂い分子が嗅細胞まで届かなくなるのです。アレルギー性鼻炎や花粉症、鼻の中にできるポリープ(鼻茸、はなたけ)でも、同じ理由で匂いを感じにくくなります。

次いで多いのが、風邪やインフルエンザなどのウイルスや、頭・顔の外傷により、嗅覚を司る嗅神経がダメージを受けて嗅覚が落ちるものです(嗅神経性嗅覚障害という)。アルツハイマー型認知症やパーキンソン病のような加齢性の病気でも、早期から嗅覚障害が起こることがあります。