動脈硬化が心筋梗塞や脳卒中の原因になることは広く認知されているが、足の動脈にも深刻な障害を引き起こすことはあまり知られていない。足の動脈硬化、「下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)」は、心筋梗塞や脳梗塞を合併して死亡するリスクが高く、下肢を切断する場合もある怖い病気だが、見逃されていることも多いという。下肢閉塞性動脈硬化症の原因や、症状が似ている「脊柱管(せきちゅうかん)狭窄症」との違い、治療の実際などについて、東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授の中村正人氏に聞いた。
「下肢閉塞性動脈硬化症」は喫煙や加齢、糖尿病などから起こる
下肢閉塞性動脈硬化症はどのような仕組みで起きる病気なのでしょうか。
中村 一般によく知られているように、動脈硬化とは、動脈が狭くなったり詰まったりして血液が流れにくくなった状態です。心臓では狭心症や心筋梗塞、脳では脳梗塞や脳出血を起こし、死に至る可能性があることは皆さんご存じの通りです。この動脈硬化が足に表れるものを下肢閉塞性動脈硬化症といいます。
心臓や脳の動脈硬化はコレステロールが蓄積して徐々に進むため、多くの場合は脂質異常症(コレステロール値や中性脂肪値の異常)や高血圧と深い関わりがあります。一方、下肢閉塞性動脈硬化症の原因として圧倒的に多いのは「喫煙」で、次いで「年齢」や「糖尿病」です(図1)。脂質異常症や高血圧の関連度は少し低いのですが、その理由はよく分かっていません。

下肢閉塞性動脈硬化症のある人の約半数は、心臓や脳にも血管の病気を合併しています。足に動脈硬化があるということは、全身の血管に動脈硬化が起きている可能性が高いのです。そのため、下肢閉塞性動脈硬化症があると心筋梗塞や脳梗塞を合併しやすく、健康な人の約2倍も死亡率が高いと言われています。
下肢閉塞性動脈硬化症の患者は増えているのでしょうか。
中村 公の調査は行われていませんが、下肢閉塞性動脈硬化症は高齢者に多いので右肩上がりに増えています。60歳以上の日本人で下肢閉塞性動脈硬化症のある人は1~3%、70歳以上なら2~5%と推計されていますが(*1)、私の感覚では70代、80代なら1~2割程度いるのではないかと思います。
下肢閉塞性動脈硬化症における大きな問題は、認知度が低いために、診断されていない人、十分に治療を受けていない人が多いことです。悪化すれば足を切断しなければならないことがある上、心筋梗塞や脳卒中などによる死亡率も高いので、もっと多くの人に知ってほしいと思います。