高いところにある物を取ろうとする、ドライヤーで髪を乾かそうとする…そうした何気ない動作で肩に激痛が走り、腕が上がらなくなる。これは俗に「五十肩」と呼ばれる病気だ。だが、生活に支障が出る割には「年齢を重ねれば誰でも通る道」と考え、「そのうち治るだろう」と放置する人が多い。五十肩は、早く治療を始めれば回復も早い。五十肩が起こる原因や仕組み、そして長引かせないポイントについて、自治医科大学医学部特命教授の神戸克明氏に詳しく聞いた。
五十肩の始まりは、骨のトゲによってできる「傷」や「炎症」
年齢を重ねると「五十肩」を経験する人が増えますが、五十肩はどんな病気で、なぜ起こるのでしょうか。
神戸 五十肩とは、肩関節の周辺組織が炎症を起こすことにより、肩が痛み、腕を動かせる範囲(可動域)が狭くなる、この2つの条件がそろった状態をいいます。腕が上がらず髪をとかせない、背中に手が回らない、という五十肩ならではの症状は、肩関節の構造的な問題によって起こります。
肩を触ると、肩峰(けんぽう)という骨の突起があるのが分かります(図1)。この肩峰の下側に「骨棘(こつきょく)」というトゲができることがあります。小さいと2~3mm、時には1cmもの大きさになるトゲですが、これが「腱板」という腱に当たると、こすれて痛みや炎症が起こります。これが五十肩の始まりです。
五十肩は程度によって大きく3段階に分かれ、肩の痛みだけがある「肩関節周囲炎」から、痛みに加えて関節の動きも悪くなる「五十肩」へと進みます。そのまま放置すれば、関節を包む袋(関節包)の中にも炎症が広がり、周辺の組織が固まって癒着を起こす「拘縮肩」へと発展します(図2)。