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破裂すればくも膜下出血! 脳動脈瘤はどう治療する?

開頭しないカテーテルによる治療も大きく進化

 田中美香=医療ジャーナリスト

脳ドックなどで偶然見つかることの多い、脳動脈瘤。破裂すればくも膜下出血となり、致死率は3割を超えるが、破裂しないまま一生を終えることもあり、治療すべきかどうか頭を悩ませる人も少なくない。近年は、脳動脈瘤を取り除く治療も大きく進化している。未破裂脳動脈瘤の怖さと最新の治療技術について、世界的な治療実績を持つ昭和大学医学部脳神経外科学講座主任教授の水谷徹氏に聞いた。

脳動脈瘤は、動脈硬化とは関係なく、物理的な刺激で生じる

脳の中になぜ動脈瘤ができるのか、まずは病気の成り立ちについて教えてください。

水谷 動脈瘤は動脈の一部がコブ状に膨らむもので、これが脳の動脈にできると脳動脈瘤と呼ばれます。その多くは動脈が枝分かれするところにできます(図1)。血管の分岐部は血流が当たり続けるため、壁が弱くなり、コブのように膨らみやすいのです。

図1 脳動脈瘤ができる場所
脳動脈瘤は、脳を覆う軟膜とくも膜の間にある「くも膜下腔」というスペースにできる。多くは脳動脈が枝分かれするところに発生する。原図(c)Roberto Biasini-123RF

 動脈の病気はメタボリックシンドローム(メタボ)の人に多いと思われがちですが、脳動脈瘤の多くは、メタボの有無とは関係なく、血管壁に血流が当たるという物理的な刺激で生じます。メタボの人によく見られる、血管の中にコレステロールなどがたまる動脈硬化とは成り立ちが全く違うことに注意が必要です。

 脳動脈瘤は、脳を覆う軟膜とくも膜の間にある、くも膜下腔というスペースに見られます。破裂する前に発見されるものを未破裂脳動脈瘤といい、破裂して起こるのが、致命率が高いことで知られるくも膜下出血です。

脳動脈瘤ができやすいのはどんなタイプの人ですか。

水谷 顕著に多いのは喫煙者です。また、タバコを吸わなくても、近親者にくも膜下出血を起こした人や脳動脈瘤のある人がいるなど、遺伝的要素による場合もあります。

 年齢でいえば若い人より中高年に多く、性別では男性より女性のほうが1割ほど多く見られます。脳動脈瘤ができる場所によっては3~4倍も女性のほうが多いこともあるのですが、女性に多い理由は分かっていません。

くも膜下出血はハンマーで殴られるような強い頭痛が特徴だと聞きます。脳動脈瘤にも症状があるのでしょうか。

水谷 破裂していない段階で症状が出るかどうかは、脳動脈瘤ができる場所や大きさによります。一番多いのは、目を動かす神経が脳動脈瘤に圧迫される「動眼神経麻痺」で、まぶたが勝手に閉じる、物が二重に見えるなどの症状が現れます。脳動脈瘤が視神経の近くにあれば視野が欠けることもあります。

 ただし、多くの場合、未破裂脳動脈瘤に症状はありません。症状が出やすいのは大きな脳動脈瘤ですが、3~4mmであってもまず症状は出ないと言っていいでしょう。

脳ドック受診者の25人に1人の確率で未破裂の脳動脈瘤

脳ドックなどで発見される確率はどのくらいですか。

脳動脈瘤は、ひとたび破裂すれば3割以上の人が命を落とす。(c)spotmatikphoto-123RF

水谷 日本の大規模な脳ドックにおける1年間の受診者4070人を対象とした最新の調査では、成人の4.3%に未破裂脳動脈瘤が発見されました(*1)。およそ25人に1人ですから、決して少ない数字ではありません。

 脳ドックで未破裂脳動脈瘤を見つけるには、MRIとMRAが有効です(*2)。脳ドックで診断できるのは2mm以上の脳動脈瘤で、もっと小さければ診断できないこともあります。それでも、症状がない脳動脈瘤が見つかるかどうかは、脳ドックを受けるかどうかにかかっています。血縁者にくも膜下出血を起こした人や脳動脈瘤が見つかった人がいる方は特に、40~50歳になったら一度は脳ドックを受けることをお勧めします。

治療は開頭手術とカテーテルによる血管内治療の二択

未破裂脳動脈瘤が見つかったら、必ず治療するのでしょうか。

水谷 脳動脈瘤のすべてが治療の対象になるわけではありません。脳動脈瘤があっても破裂しないまま終わる人も多く、年間破裂率の全体平均は0.95%とされます(*3)。したがって、脳動脈瘤を治療するかどうかを決める際は、破裂する確率と、治療の安全性の両面から慎重に検討します。

 脳動脈瘤は大きいほど破裂しやすいため、2mm程度の小さいものであれば、多くの場合は経過観察となります。しかし3mmを超えると要注意です。3~4mmなら年間破裂率は0.4%ですが、5~6mmで0.5%、7~9mmで1.7%、10~24mmで4.4 %、25mm 以上なら33.4%に跳ね上がります。 必ず破裂するとは限らない、治療にはリスクも伴う、こうしたことを合わせて考えると、患者さんの意向によっては、4~5mmでも治療せず様子を見ることもあります。

 とはいえ、今は2mmでも大きくなる可能性があるので、見つかれば一生フォローしなければなりません。経過観察を選べば脳動脈瘤を持ち続けるという不安が、治療するなら安全性への不安が出てくるので、治療するかどうかは患者さんとよく話し合って決める必要があります。

いざ脳動脈瘤を治療するとなったら、開頭して手術するのでしょうか。

水谷 脳動脈瘤の治療方法は大きく2つ、頭蓋骨を開けて行う「開頭手術(クリッピング術)」と、開頭しないでカテーテルによって治療する「血管内治療」があります。開頭手術は年々減少傾向で、血管内治療が増えつつあります。今年(2019年)あたりに半々の割合になるのではないでしょうか。

*1 Imaizumi Y, et al. J Neurosurg. 2018:Apr 6;1-6.
*2 MRAとMRIはいずれも強い磁石と電磁波を使って断層撮影を行う検査。MRIはあらゆる組織を描写するが、MRAは血管だけを映し出す。
*3 7000人規模で実施した日本人の調査(UCAS Japan 2012年)による。

 開頭手術では、脳動脈瘤の根元をチタン製のクリップではさみ、コブの中に血流が入らないようにします(表1)。開頭するぶん患者さんの体の負担は大きいのですが、根治性が高いのがメリットです。クリップの形はさまざまで、大きさも1cm未満から5cmまで何十種類もあります。

 ただし、術者から見えにくい場所にある脳動脈瘤はもちろん、血管が癒着している場合も手術が困難となり、癒着を剥がすときに破裂するリスクがあります。それに脳動脈瘤の形は千差万別で、どこをどうクリップで止めるかは職人の技。執刀医には高いスキルが求められます。

表1 開頭手術(クリッピング術)のメリット・デメリット
方法
  • 開頭し、脳動脈瘤の根元をクリップで止めて血液の流入を防ぐ
  • 脳動脈瘤から分岐する動脈が出ている場合はバイパス術を行うこともある(クリップで動脈を閉塞させつつ、新たな血管でつなぐ)
  • 手術は5~6時間、入院期間は10~12日
メリット
  • 再発率が低く、根治が期待できる
  • 動脈瘤の形にかかわらず、根っこの広いタイプ(ブロードネック)にも対応できる
  • 手術中に万一破裂しても、その場で対処できる
デメリット
  • 患者の負担が大きく、頭皮に傷痕が残る
  • 術者の技術に左右されやすい

開頭しない「血管内治療」はどのような方法なのですか。

水谷 血管内治療は、太腿の付け根(鼠径部)から動脈の中にカテーテルを入れて脳に到達させ、血管の中から治療する方法です(表2)。開頭しないので、患者さんの負担が少ないのが利点です。血管内治療の1つ、コイル塞栓術では、カテーテルを通じて脳動脈瘤の中に1本のコイルを送り込み、巻きながらコブの中に詰めていきます。コイルを詰めると、その周りに血の塊(血栓)ができて内腔が埋まり、破裂を防ぐことができます。

表2 血管内治療のメリット・デメリット
方法
  • 足の付け根(鼠径部)からカテーテルを入れ、脳まで到達させて治療する
  • 手術は約2時間、入院期間は4~5日
<コイル塞栓術>
動脈瘤の中にコイルをクルクル巻いて詰める(同時に動脈にステントを留置するのが一般的)
<フローダイバーター留置術>
目の細かいステントを動脈に留置し、動脈瘤に血流が入るのを防ぐ。根っこが広い形の動脈瘤にも使いやすい

原図(c)Roberto Biasini-123RF
メリット
  • 開頭しなくてもいいので患者の負担が少ない
  • 動脈瘤が左右にある場合でも治療できる
デメリット
  • 開頭手術に比べると再発率が高い
  • ステント留置によって血栓ができやすいため、治療後は抗血小板薬を飲み続ける必要がある

 コイルを詰めた後は、動脈の中にコイルが落ちてくるのを防ぐためにステントという筒型の金属を留置する場合もあります。しかし、それでも大型の動脈瘤は、再びコブの中に血流が入って再発してしまうことが多いという問題がありました。そこで2015年、フローダイバーターという目の細かいステントが認可され、現状のステントに比べてコブの中に血液が流入するのをより防げるようになりました。ただし、フローダイバーターは使える部位が限られ(*4)、特定の施設や術者しか認可されていないのであまり広まっていません。

*4 フローダイバーターは内頸動脈にできた大きな脳動脈瘤に限定されている。

 血管内治療でステントを使用する場合の一番のデメリットは、術後に血液が固まりにくくなる薬(抗血小板薬)を飲み続ける必要があることです。ステントを使うと血管内の異物が血栓になりやすく、脳梗塞の発症リスクがつきまとうからです。でも一方で、薬を使えば、別の場所で出血したときや大腸検査などの検査時に血が止まらず大出血になる可能性があるため、どうしても抗血小板薬を止める必要が出てくる場合があります。現時点では何年で薬をやめていいという決まりがないので、ずっと薬を使わなければなりません。そのため、負担が少ないからといって血管内治療が一番ともいえないのです。

 血管内治療は、10%少々で脳動脈瘤が再発するのもデメリットの1つです。しかし、高齢者など、開頭手術による負担を避けたい場合には血管内治療を選びます。反対に、30~40歳の若い人なら、根治性を優先して開頭手術を選びます。ただし、一番に考慮すべきは、再発するかどうかより、治療の安全性です。脳動脈瘤の大きさや形、術者の技術などを視野に入れてトータルに考えていきます。

今後、さらに新しい治療方法が出てくる見込みはありますか。

水谷 新しい治療が登場するとすれば血管内治療でしょう。海外では、今以上に小さなフローダイバーターを使って、末梢にある脳動脈瘤も治療できるようになりました。数年もすれば日本でも使われるようになるでしょう。

 さらに、ウェブというネット状の金属を脳動脈瘤に詰める方法も出てくると思われます。1本のコイルを巻いて詰めるコイル術と違い、ウェブは最初から提灯のような形をしたネットをカテーテル経由で入れます。日本ではまだ認可されていませんが、臨床試験が進みつつある頃かと思います。

脳動脈瘤が破裂すれば、3分の1は帰らぬ人となる

治療するべき脳動脈瘤が見つかったとき、医療機関を選ぶポイントを教えてください。

水谷 まず参考になるのが脳動脈瘤の症例数(その医療機関で治療を受けた患者の数)です。症例数が多い医療機関ではおのずと医師の技量が上がるので、参考になります。加えて、治療成績まで公表しているかどうか、そして血管内治療と開頭手術の両方をバランスよく実施しているかどうかも大切です。近隣の医療機関のウェブサイトを調べてみるといいでしょう。

脳動脈瘤を経過観察することになった場合、生活上の注意点はありますか。

水谷 タバコは脳動脈瘤の発生にも破裂にも関わる要素なので、禁煙は欠かせません。また、血圧の管理も大切です。高血圧になると血管に圧力がかかって脳動脈瘤が大きくなるため、血圧は正常範囲内に抑える必要があります。

 脳動脈瘤が破裂するくも膜下出血は、一度起こすと救命が大変厳しい病気です。亡くなるか、社会復帰できるか、障害が残るか、確率は各3分の1です。脳動脈瘤が見つかるかどうか、治療するかどうかにかかわらず、生活習慣には注意してほしいと思います。

水谷 徹(みずたに とおる)さん
昭和大学医学部脳神経外科学講座主任教授、昭和大学病院脳神経外科診療科長
水谷 徹(みずたに とおる)さん 1984年東京大学医学部卒業後、同大学病院脳神経外科、東京都立多摩総合医療センター部長を経て、2012年より現職。専門は、脳動脈瘤、頸部頸動脈狭窄、バイパス術をはじめとする脳血管障害の手術治療、良性脳腫瘍の手術。同院の治療成績を牽引してきた脳外科手術のスペシャリストであり、他の医療機関で手術が困難とされた患者も全国から訪れている。
編集協力:ソーシャライズ
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