かからぬ先の抗インフルエンザウイルス薬 ~予防的投与のススメ~
前述したように、ワクチンは小児や成人では一定の効果が認められるが、問題は高齢者だ。高齢者ではA香港型に対するワクチンの有効性は低く、重症化しやすいため、ワクチンを打ったからといって安心できない。
そこで検討したいのが、抗インフルエンザ薬の「予防的投与」だ。「ワクチン効果の低いA香港型が流行すれば、感染した人の家族にも容易にうつります。同居家族から高齢者など、重症になりやすい人への感染を予防するためには、予防的投与が効果的です(*4)」(菅谷氏)。抗インフルエンザ薬を予防薬として用いる時は、治療薬として用いるときとは使い方が少し異なる。たとえば、タミフルを治療のために使用する場合は、1日2カプセルを5日間飲むが、予防的に飲む場合は1日1カプセルを7~10日間服用する。
ただし、予防投与に健康保険は適用されない。残念ながら自費診療となるが、あてはまる人が家族にいるなら、うつる前にかかりつけ医に相談してみよう。
*2 Bragstad K, et al. Low vaccine effectiveness against influenza A(H3N2) virus among elderly people in Denmark in 2012/13--a rapid epidemiological and virological assessment. Euro surveillance. 2013;18(6).
*3 Griffin MR, et al. U.S. hospitalizations for pneumonia after a decade of pneumococcal vaccination. N Engl J Med. 2013 Jul 11;369(2):155-163.
*4 予防的投与の対象は、インフルエンザに感染した同居人がいる人で、かつ、高齢者(65歳以上)のほか、慢性心疾患・糖尿病などの代謝性疾患・腎機能障害・慢性呼吸器疾患を持つ人。保険は利かず、自由診療扱いとなる。
日本で認可されているインフルエンザのワクチンは、皮下注射用の不活化ワクチンという種類のワクチンだが、欧米では噴霧型の生ワクチン「フルミスト」を子どもに接種するよう勧められている(*5)。「フルミストは鼻にシューッと噴霧するだけなので、痛がりの子どもにはうれしいワクチンです。年齢の低い子どもに関しては、フルミストの方が免疫がつきやすいという報告もあります。しかし、日本人での副作用はまだわかりません。また、喘息の子どもには使えません」(菅谷氏)。
フルミストは、不活化ワクチンと同様に鶏卵で製造しているため、A香港型に対する効果に関しては不活化ワクチンと同様の懸念がある、とも菅谷氏は言う。また、欧米では安全性が確立しているものの、日本では使用経験が少なく、副反応の頻度も不明だ。「日本にもフルミストを個人輸入して使っている医師がいますが、万が一、重い副反応が起きてしまっても、予防接種法の救済制度の対象外となりますので、接種を希望する方はそのことも念頭に置いておく必要があります」(菅谷氏)。
ちなみに、フルミストは日本でも認可に向けての臨床試験が始まっており、近い将来、使えるようになるとみられている。
けいゆう病院小児科、慶応大学医学部客員教授

病気の解説やその分野のトップレベルのドクターを紹介するWebサイト「ドクターズガイド」を運営。