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高血圧は40代以降を襲うサイレントキラー

冬場に注意したい高血圧【後編】

入浴時などの急激な温度変化によって起こるヒートショック。原因に深くかかわる高血圧は、働き盛りのビジネスパーソンも無視できない。自分は血圧が正常だから関係ないと思っていても、実は「隠れ高血圧」の可能性も。前編「怖い入浴中の突然死、ヒートショックはなぜ起こる?」に引き続き、高血圧対策のポイントを横浜市立大学附属病院腎臓・高血圧内科 診療科部長・主任教授の梅村敏氏に聞いた。

診察室で測る血圧がすべてではない。(©kurhan-123rf)

 年末年始に向かうこの時期は、外での飲食の機会も多いため、塩分やカロリーのとりすぎなどで血圧が高めになることが多い。

 現在、男性では40代の約30%、3人に1人が高血圧であるが、50代になると約63%と、倍以上に跳ね上がる。女性では女性ホルモンの関係で更年期以降に高血圧が増加する(厚生労働省「健康日本21」)。「50代男性では高血圧の人の割合がいきなり高くなる。この原因は明らかではありませんが、社会的責任の大きさによるストレス等も関係しているのかもしれません」(梅村氏)。

 高血圧は無症状の場合が多く、本人が気づかないうちに進行しやすい。それが「サイレントキラー(静かなる殺人者)」といわれる理由だ。40~64歳の人は、他の心血管病の危険因子が高齢者より相対的に少なく、高血圧が心血管病の原因として大きく関与していると考えられる。

 高血圧の6~7割は生活環境によるものだが、残りの3~4割は遺伝である。現時点で高血圧と診断されなくても、両親が高血圧であれば今後高血圧になるリスクが高いので、早いうちから血圧には気を付けておきたい。40歳を過ぎたら、家庭でも定期的に血圧測定の習慣をつけるのがオススメだ。

 現在までに、日本国内で販売された家庭用血圧計は推計約4000万台、これは世界一の販売数である。コンパクトなサイズで使い勝手も格段に進歩しているから、体重計を買うのと同じ感覚で、ぜひ一家に一台備えておきたい。スマートフォンで、日々の血圧を管理できるアプリを併用してもいいだろう。

病院ではわからない「仮面高血圧」が怖い

 高血圧にはさまざまなタイプがある。例えば、自宅で測定すると正常値なのに、診察室では高い値が出る「白衣高血圧(white coat hypertension)」。白衣を着た医療従事者に測定してもらうことなどで、診察室で緊張することが原因だとされる。

 これと真逆で、診察室で測定する血圧値は正常なのに、家庭や職場で自分で測定すると高い血圧値が出る「仮面高血圧(masked hypertension)」もある(下図)。本当の高血圧がマスクされているという意味だ。病院で「あなたは高血圧です」と診断されれば、血圧を下げる努力を始められるが、わからないだけに治療開始が遅れてしまい、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす危険性がある。

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 仮面高血圧は、血圧が高くなる時間帯によって、早朝タイプ、昼間タイプ、夜間タイプがある。このうち、早朝タイプでは、朝方に脳卒中や心筋梗塞などが起こりやすい要因の1つと考えられている。まずは起床時に自宅で定期的に血圧を測定する“朝活”の習慣をつけたい。

 「ストレス下高血圧」とも呼ばれる昼間タイプは、ケアが難しい。仕事中にイライラ、カッカ…とストレスで血圧が上がるとしても、職場で毎日血圧を測るわけにもいかない。必要があれば、1日中、30~60分おきに自動計測してくれる血圧計を病院で借りる方法もあるので、気になるなら医師に相談してみよう(*1)。

*1 24時間自由行動下血圧計(ABPM)は、2008年より保険適用が認められている。体に血圧計を装着すれば、昼間も睡眠中も自動的に測定することができる。

もっと自分の血圧に関心を持とう

 「40代以降、高血圧は怖い」というのは確かだが、高齢者に比べると、40代ではデータの上では減少傾向にある(*2)。

 「日本における高血圧の人は約4300万人と推計されていますが、英国の医学誌『Lancet』の日本医療特集号(2011年)に載った論文によると、降圧目標である140/90mmHg未満を達成できている人は約1000万人に過ぎず、4人に1人しかコントロールできていません。さらに、約40%の人は、自分が高血圧であることを知らないのです」(梅村氏)。

 このことには、雇用形態が多様化していることも関係するかもしれない、と梅村氏は推測する。正社員として雇用されていない人の中には、自治体の健康診断を毎年受診していない人も少なくない。さらに、高血圧だと診断されていても、治療を受けていない人もいる。「今年はまだ健康診断を受けてない」と思い当たる人は健診を行っている医療機関へ、「高血圧だと言われたが病院に行っていない」という人は病院へ、重い腰を上げて受診しよう。

高血圧だとわかったら、薬だけに頼らず生活習慣を変えること

 高血圧は生活習慣病。血圧が高いとわかったら、まずは生活改善が第一だ。長年の習慣を変えるのは難しいが、できることから少しずつでも取り組んでみよう(下表)。降圧薬の効果も生活習慣の改善により、良好となる。

血圧を下げるための6つの生活習慣
塩分は1日6gまでにする現在、日本人の塩分摂取量は1日約11gと言われ、高血圧の人はこれを6gに減らすことが目標。塩分が多くなりがちな外食は避け、ラーメンのスープを残すなどの工夫をしたい
肥満の人は減量する肥満は血圧の敵。肥満傾向の人はBMI 【体重(kg)÷身長(m)2】 が25未満におさまるよう減量し、維持しよう
お酒はほどほどに(*3)アルコール摂取の直後は一時的に血圧が下がるが、翌朝にはかえって上昇する。飲酒量が増えると高血圧の原因になる。塩分の高いおつまみも要注意
禁煙するタバコを吸うと末梢の血管が収縮し、血圧が上がる。タバコ1本で、15分間血圧上昇が続くとも言われる
果物・野菜をよく摂る果物や野菜など、ナトリウムの排泄を促すカリウムを多く含む食材を積極的に食べよう。野菜・果物を中心としたDASH食(*4)も注目されている
運動不足を解消する毎日30~60分のウォーキングなど、三日坊主にならないよう続けることが肝要。かといって、がむしゃらに頑張りすぎるのも禁物
*3 エタノールで男性20~30mL/日以下(例:日本酒1合、ビール中瓶1本)、女性10~20mL/日以下
*4 DASH食…Dietary Approaches to Stop Hypertensionの略。アメリカで研究された高血圧を防ぐ食事法。カリウム・マグネシウム・カルシウム・食物繊維・たんばく質を増やし、飽和脂肪酸・コレステロールを減らすこととしている

(取材:稲垣麻里子、まとめ:田中美香)

梅村 敏(うめむらさとし)さん
横浜市立大学附属病院腎臓・高血圧内科 診療科部長・主任教授
梅村 敏(うめむらさとし)さん

1975年横浜市立大学医学部卒業後、米国クレイトン大学医学部高血圧研究所・助教授を経て、1998年横浜市立大学内科学第二講座・教授、2008年同大医学部長、2010年病院長、2012年より横浜市立大学学術院・医学群長を歴任。

著書に、『高血圧にならない、負けない生き方(日本屈指の名医が教える「健康に生きる」シリーズ)』(2015年、サンマーク出版)ほか多数。

編集協力:ソーシャライズ
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