日経グッデイ

季節の病気を上手に防ぐ

「男の手荒れ」をケアしよう

イクメン・団塊世代のためのハンドケア入門

 田中美香=医療ライター・ジャーナリスト

空気が乾燥する秋冬は、手荒れの悩みが増えやすい。手荒れといえば、女性特有の悩みというイメージが強い。家事で手が乾く暇がなく、皮膚の保湿成分が失われて起こる「主婦湿疹(手湿疹)」が有名だ。だが、「男性でも手荒れに悩む人が増えてきた」と話すのは、おおた皮膚科(埼玉県所沢市)院長の太田みどり氏。女性と比べてスキンケアの知識が乏しく、手入れがおろそかになりがちな男性に向けて、手荒れを悪化させないための方法をうかがった。

男性に増えつつある手荒れ。その理由は?

家事をすれば手も荒れる…(©TAGSTOCK2-Fotolia.com)

 「秋冬になると、女性とまったく同じ手荒れの症状で皮膚科に足を運ぶ男性が目立つようになりました。美容師などの職業の方では、以前から手荒れで来院する男性はいましたが、最近多くなったのは、仕事で特に手を酷使することのない、デスクワークの男性。年齢としては、比較的若い、子育て世代です」。

 太田氏は、この傾向について、結婚・出産後も仕事を続ける女性が増え、それに伴って家事や育児を積極的に担う男性が増えたからではないかと推測する。

 最近は、妻が専業主婦であっても、皿洗い程度は手伝う男性も多いし、共働き世帯では料理や洗濯までこなす男性もいる。赤ちゃんがいる家庭であれば、当然の役目としてオムツを替える男性も少なくない。

 太田氏によると、イクメン世代同様、手荒れが増えつつあるのは「団塊の世代」だという。料理ができる男性がカッコイイと言われるようになり、リタイア後の趣味として料理を楽しむ人が急増した。すると、やはり水仕事で手荒れが起こるというわけだ。

男性の手荒れが女性と違うのは、「ケアする習慣」が少ないこと

 男性の場合、女性に比べると、手肌をこまめにケアする生活習慣はまだ少ないのが現状だ。このことも男性の手荒れを増やす一因となっている、と太田氏は指摘する。

 「洋服を着ている体と違って、手は無防備です。秋冬に冷たい空気に触れると手は荒れやすいのですが、男性は、女性ほどこまめに手袋をつけません。スキンケアの知識も少ないため、お手入れもおろそかになりがちです」(太田氏)。クリームを塗った方がいいと周りから勧められても、面倒でなかなか続かない…こんな状況が思い当たる人も多いだろう。

正しいハンドクリーム選び ~成分の濃度が高ければ良いわけではない

 手荒れへのセルフケアといえば、まず思い浮かぶのが、ハンドクリームだ。皮膚にうるおいを与える成分は、「皮脂膜」「天然保湿因子」「細胞間脂質」の3つに大別される(図1)。

図1◎ 皮膚に潤いを与える3つの成分
皮膚にうるおいを与える成分は、「皮脂膜」「天然保湿因子」「細胞間脂質」の3つに大別される。
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 ハンドクリームには、これらを補う成分が配合されているが、尿素、セラミド、ワセリンなど、種類が多すぎて選びかねてしまう人も多いだろう(表1)。

表1◎ 保湿剤(ハンドクリーム)の主な成分
尿素系角質の水分を守るとともに、乾燥した肌をしっとりと保つ効果がある。亀裂が入る前の軽症の段階で効く。
セラミド系角質層の細胞の間に存在する「細胞間脂質」の一つ。水分を保ち、外部からの刺激から皮膚を守る。保湿効果も高い。
ヘパリン類似物質水分を保持する働きがある。塗った時にしみにくく、高い保湿能力を持つ。皮膚科では「ヒルドイド」がよく処方される。
油脂系油分で肌に膜を作り、水分の蒸発を抑える。白色ワセリンなどが販売されている。
ビタミン系ビタミンA、Eなどが含まれ、血行促進効果がある。

 「手荒れの症状が軽い場合は、基本的にはどのタイプのハンドクリームを選んでも大丈夫です」と太田氏はアドバイスする。例えば、天然保湿因子に含まれる尿素入りのハンドクリームは、皮膚にしっとり感を与える。多くの商品には「尿素〇%配合」といった表示がしてあり、基本的には、含有量が多いほど効果も高い。

 ただし、手荒れがひどくなり、亀裂が入っているような場合は、注意が必要だ。「亀裂が入るほど荒れてしまったら、濃度の高い尿素は傷口にしみて痛みを感じてしまいます。そうした状態の患者さんに、病院では尿素軟膏を出すことはありません」(太田氏)。

 ひどく悪化した手荒れに対して、病院で一般的に処方されるのはステロイド剤の軟膏だ。亀裂が入った状態になると、ステロイド剤を含む薄いテープを巻いて、治るのを待つことになる。顔と違って、手の皮膚には厚みがあるので、短期間であれば、比較的効き目が強いタイプのステロイド剤を使っても問題ないという。

手の潤いを取り戻す「綿の手袋」

 日中はハンドクリームを塗り忘れてしまう、そんな無精タイプの人は、せめて夜だけでも塗る習慣をつけたい。乾燥がひどい場合は、「就寝前にクリームを塗って、その上に綿の手袋をつけてください。これだけでかなり違ってきます」と太田氏は話す。寝ている間は、無意識に手袋を取ってしまうこともあるだろう。それでも、30分、1時間でも、綿の手袋をしておけば、塗った成分が皮膚に浸透するため、それなりの効果は得られるという。

 ちなみに、水仕事用のゴム手袋は、それ自体が皮膚に悪影響となることもあるから気を付けたい。「ラテックス(天然ゴムに含まれる成分)にアレルギーがある人もいるし、ゴムが触れる刺激で手荒れが悪化する人もいます。ゴム手袋の中には、着用しやすいように内側に粉がついたものがありますが、その粉でかぶれる人もいるのです。ゴムが肌に合わないなら、まず綿の手袋をつけて、その上にゴムの手袋をするとよいでしょう」(太田氏)。

 手袋をつける際に注意したいのは、清潔なものを使うことだ。汚れのせいでかえって悪化しないよう、こまめに交換したい。

水仕事の前に、ひと塗りのワセリンで手荒れを予防する

 手荒れのケア以前の問題として、何より大切なのは「予防」である。悪化して慌てて受診したところで、亀裂が入った状態から治療するのは大変だからだ。手荒れを予防するために病院でよく処方されるのは、サリチル酸が入ったワセリン。皮膚をしっとりさせ、表面の乾燥を防ぐ作用があり、手を使う仕事、たとえば洗濯物を干す前に塗っておけば、外気から手を守ってくれる。

 「家事をする人の手は、いつも半乾きです。洗濯物を干すとき、濡れた手で外気に当たれば、さらに手荒れが進みます。荒れ方がひどい時は、部屋干しにするか、あるいはサリチル酸入りのワセリンを塗ってから干すとよいでしょう、病院を受診していない方は、薬局で販売されている白色ワセリンでも構いません」(太田氏)。こうしたこまめなケアを習慣化することで、大切な自分の手をきちんといたわってあげよう。

太田みどり(おおた みどり)さん
おおた皮膚科院長
太田みどり(おおた みどり)さん 1974年日本医科大学卒業。国立医療センター皮膚科・日本医大微生物免疫学教室を経て、東京逓信病院皮膚科勤務。東京逓信病院では皮膚科化粧品外来を11年にわたって担当し、化粧品かぶれなど女性の肌のトラブルを数多く扱ってきた。現在はおおた皮膚科院長。
日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医、医学博士。専門は接触皮膚炎。テレビ出演の他、スキンケアに関する著書多数。
編集協力:ソーシャライズ
病気の解説やその分野のトップレベルのドクターを紹介するWebサイト「ドクターズガイド」を運営。