2014年の夏、東京・代々木公園を舞台に大騒動となったデング熱。例年であれば、海外の流行地で蚊に刺され、デングウイルスに感染した人が日本に入ってから発病する病気だが、2014年は、69年ぶりに国内感染者が現れたことが問題視された。2015年、デング熱の国内感染は再び起こるのか、注意するべきことは何か、国立感染症研究所ウイルス第一部第2室室長の高崎智彦氏に聞いた。
越冬した卵によるデング熱の再流行はある?

デング熱は、デングウイルスによる感染症で、高熱や頭痛、体の痛みなどを主な症状とする。ヤブカ属のネッタイシマカ(日本には常在しない)やヒトスジシマカが媒介する病気で、感染者の血を吸った蚊がウイルスを運び、別の人を吸血することで感染する。人から人に直接感染することはない。
2014年夏のデング熱流行は、「熱帯諸国の感染症がついに日本に持ち込まれた」と、日本中がおびえる騒ぎになった。しかし、日本でデング熱患者が出たのは、この年に限ったことではない。2012年は全国で220人、2013年は249人のデング熱患者が確認されている。2014年に騒がれたのは、海外で感染した179人に加えて、162人の国内感染者が現れたためである(国立感染症研究所による)。
そこで気になるのが、昨年の流行を引き起こした、デングウイルスを持つ蚊が産んだ卵が越冬して、ウイルスを持った状態で孵化し、再び国内感染を引き起こすかどうかだ。昆虫が媒介する感染症に詳しい国立感染症研究所ウイルス第一部第2室室長の高崎智彦氏は、その可能性は低いと語る。
「ネッタイシマカがいない日本では、ヒトスジシマカがデングウイルスを媒介します。ヒトスジシマカに実験室で、デングウイルスを感染させると、0.2~0.5%の確率で卵にウイルスが伝播しますが、冬の間風雪にさらされる環境では孵化率が低下し、デングウイルスが卵の中で越冬し次のシーズンにつながることは難しいと見ています。可能性はゼロではないものの、自然界でウイルスを持つ卵が越冬したという報告はありません」。
今年も流行するとすれば、昨年同様、海外からの持ち込みによると考えるのが妥当だろう。国立感染症研究所の集計によると、2015年に入って7月19日までに報告されたデング熱患者は131人。すべて国外で感染したとみられる患者だ。海外旅行からの帰国者が増え始めるこの時期は、特に注意が必要だ。
症状は風邪よりずっと重く、「デング出血熱」になることも
デング熱にかかっても重症化することはまれで、経過は良好だ、と報道されたこともあって、「安静にすれば治る、風邪のような病気」と安易に考える人もいるだろう。しかし、デング熱の症状が風邪と同程度とするのは誤解だと高崎氏は話す。
「風邪といえば、鼻水や咳が出る、のどが痛い、などの症状が一般的ですが、デング熱で風邪の症状が出ることはめったにありません(表1)。インフルエンザに似ているとも言われますが、もっと痛みが強いと考えたほうがよいでしょう」。
症状 | 特徴 |
発熱 | 38度を超える高熱が出る |
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頭痛 | 頭痛に加えて、目の奥の痛み(眼窩痛)を伴う |
発疹 | 発症後2~3日経過した頃に、小さな赤い発疹が出る(必ず出るとは限らない) |
体の痛み | 筋肉痛・骨関節痛のほか、全身が痛いと表現する人もいる |