
アスペルギルスには250~300もの種類があり、中にはまったく無害のものも存在する。たとえば、アスペルギルス・オリゼーは、日本人には馴染みの深いコウジカビだ。オリゼーは塩麹や醤油、味噌などの旨み成分を出してくれるありがたいカビだが、フミガタスは違う。
フミガタスを吸い込むと、アレルギー反応を起こし、気管支炎や肺炎を引き起こすことがあるのだ。これが、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(以下、アスペルギルス症)で 、治療が遅れると、肺の組織が破壊され、呼吸不全を招きかねない、怖い病気だ。国内に20万人もの患者がいると推測される。
アスペルギルス症は、7~8年も診断がつかないことがよくある
アスペルギルス症が怖いのは、専門医でも見逃す「ドクターズ・ディレイ(doctor's delay)」が多い点だ。ドクターズ・ディレイとは、適切な診断・治療が遅れることを指すが、この病気の場合、症状が出てから診断がつくまで7~8年かかることもあるという。アスペルギルス症は咳や痰などのありふれた症状が多く、風邪や気管支炎、通常の喘息と紛らわしいからだ。また、ここ数年、「長引く咳=咳喘息の可能性が高い」という認識が医師の間に広がってきたこともあって、咳喘息の診断を受け、治療していたのに、実は咳喘息ではなくアスペルギルス症だった…というケースも後を絶たない。
発症しても必ずしも重い呼吸器の症状が出るとは限らない点も、アスペルギルス症の特徴だ。症状のピークがはっきりしないまま息切れや咳・痰がジワジワと出て、むしろ軽い症状のまま過ごす人も多い。極端な例では、健康診断の胸部X線検査で異常な影が発見されて判明したという人も。だが、中には、本人も気づかないうちに、肺の組織変化(線維化)が進んでしまうケースもある。肺の組織はいったん破壊されると元には戻らず、徐々に呼吸が困難となり、最終的には酸素吸入をしなければ生活できなくなってしまう。
フミガタスは免疫が低下している人に感染症も引き起こす
では、カビの多い環境に住んでいると、誰もがアスペルギルス症になってしまうのだろうか。実はそうではない。カビに対するアレルギー反応を起こすかどうかには体質が大きく影響する。一番注意が必要なのは喘息を持っている人だ。「実は、アスペルギルス症患者の9割以上は喘息を持っていることがわかっています。アスペルギルス症の発症と喘息の重症度には関連はなく、軽い喘息の方でも発症することは少なくありません」と谷口氏。もちろん、喘息がなければ大丈夫、というわけでもない。
また、まれだが、重度の免疫不全や、抗がん剤の治療を受けて白血球が減っている状態など、極端に免疫が低下している場合は、フミガタス自体が肺の奥まで侵入し、強力な感染症を引き起こすこともある。
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