じっとりと蒸し暑い日本の夏。梅雨時から夏にかけて、湿度の上昇と比例して増えるのが「カビ」(真菌)、そしてカビに起因する病気だ。浴室などの水回りに生えるカビはいかにも体に悪そうだが、リビングや寝室に潜む「ホコリのカビ」にも、重症のアレルギーを引き起こすカビが存在している。健康を害する屋内のカビにどう対処すればいいのか、呼吸器のアレルギー疾患を専門とする、国立病院機構相模原病院臨床研究センター・センター長の谷口正実氏に聞いた。
カビの棲みかは浴室や台所だけではない
カビはお風呂場などのジメジメとした湿度の高い場所に生える、と誰もが思うもの。しかし、実はリビングや寝室のようなごく普通の居住空間にも、たくさんのカビが棲んでいる。カビによるアレルギーに詳しい谷口氏によると、一口にカビといっても性質はさまざまで、屋内のカビの場合、水回りのカビとホコリのカビ、この2系列に大きく分けられるという(下図)。
「浴室やトイレ、台所にいる“水回りのカビ”と、リビングや寝室にいる“ホコリのカビ”の性質は全く違います。水回りのカビは湿気が大好きで、湿度90%くらいの環境に生えます。それに対し、比較的湿気がなくても生きていけるのがホコリに潜むカビで、ホコリと一緒に空気中を漂っています」(谷口氏)。
水回りのカビが原因で起きる病気には、喘息や副鼻腔炎などのアレルギー疾患や、夏型過敏性肺炎などがある。夏型過敏性肺炎は、古い木造家屋の腐った木や浴室、トイレなどに発生する、トリコスポロンという真菌を吸い込むことで引き起こされる肺炎。肺を破壊することもある病気で、たびたびメディアにも取り上げられるが、実際の患者数は数千~2万人以下とみられており、頻度としては非常に少ない。
むしろ怖いのは、ホコリのカビの1つ、アスペルギルス・フミガタス(以下、フミガタス)が引き起こす、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症だと谷口氏は言う。「われわれは、浴室で24時間過ごすことはなく、むしろリビングや寝室のホコリを吸う機会のほうがずっと多いはず。梅雨時に湿度が高くなるとホコリも湿気を含むようになり、カビの格好の棲みかとなります。しかも、そこに有害なフミガタスが潜んでいれば、病気のもとになることがあります」(谷口氏)。
