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長引く“原因不明の不調”は甲状腺ホルモンの異常かも

更年期の症状とそっくりなので要注意!

心身に多様な不調があり、医者通いをしてもなかなかよくならない…。そんな“不定愁訴”は女性ホルモンの仕業と結び付けがちだが、実は甲状腺に原因がある場合も。症状から自己判断するのは難しいので、まずはかかりつけ医で血液検査を受けてみて。

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 年だから、更年期だから、私はこういう体質だから…とやり過ごしていると、思わぬ病気の発見が遅れることも。その代表格が「甲状腺の病気」だ。特に間違われやすいのが、女性ホルモンの減少で起こる更年期の不調。似た症状が多いため、一定期間を過ぎたら治まるだろう、と放置する人も少なくないので要注意だ。

 甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、「元気の素」とも呼ばれ、全身の代謝に関わり、骨や筋肉、神経に至るまですべての臓器が影響を受ける。だからこのホルモンの分泌異常が起こると、多様な不調が全身に表れる。「動悸があれば心臓の病気、むくみがあれば腎臓の病気、という具合に、ほかの病気を疑って循環器科や婦人科へ行っても原因が分からず、長い間不調に苦しむ人が多い」と、金地病院の山田惠美子院長。受診先の医師も“甲状腺に原因があるかも”となかなか気づいてくれない点も問題だ。

図1◎ 甲状腺ホルモンの異常かも…と思った時のセルフチェック
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 甲状腺ホルモンに関わる病気の中で患者数が多いのがバセドウ病と橋本病。前者はホルモンが過剰に、後者は不足する正反対の病気だが、「いずれも自己免疫が関わる。免疫はもともと、体を病原菌などの外敵から守るために備わった仕組みだが、それが甲状腺を外敵と間違えて攻撃してしまうことで発病する」と伊藤病院の渡邊奈津子医師。

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 甲状腺の病気は圧倒的に女性に多く、バセドウ病では男性の約4倍、橋本病では約10倍にも。出産を境に甲状腺ホルモンのバランスが崩れ、一時的に過剰、または不足になったり、それが慢性化したりする場合もある。

 ただし、バセドウ病も橋本病も「すぐ命に関わる病気ではない。診断がつき、治療をきちんと受ければ元気になる病気。だからこそ、理由の分からない不調が続いたら甲状腺を疑って、血液検査を受けることが大事」と山田院長。ホルモンの分泌異常を調べるスクリーニング的な検査なら、内科や婦人科などのかかりつけ医で受けられる。結果に異常値が出たら、甲状腺の専門病院で詳しい検査を受けてほしい。


詳しい検査と治療は専門医へ
甲状腺の病気が疑われたら早い段階で専門医を受診すれば、見逃しや見立て違いを避けられ確実な治療が受けられる。日本甲状腺学会ホームページ内の情報を参考にしてみよう。

20~30代に発症が多く、ほとんどの人に持続的な動悸や手の震えが現れる「バセドウ病」

図2◎ 若い人に発症が多い
バセドウ病は20~30代に多く、全体の半数以上を占める。しかし、40~50代も3割程度と少なくないので注意が必要だ。(データ:伊藤病院)
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 甲状腺ホルモンの分泌が過剰になるバセドウ病は、男女別で1:4と女性に多く、20~30代の比較的若い世代で発症が多い。新陳代謝が過度に活発化するため「じっとしていても激しい運動をしているかのような状態になる。代表的な症状は頻脈や発汗。常にエネルギーを消耗しているので、ちょっと動いただけで疲れやすい、というのも特徴」(山田院長)。渡邊医師はこれらに加え「動悸と手指の震え」も典型的な症状に挙げる。

 これらの症状は更年期や精神的な不調でも起きるが、渡邊医師は、ほかの病気との見分け方の一つに「症状の持続」を挙げる。「ほかの病気の場合は一時的だったり、たまにしか起こらないことも多いが、バセドウ病では毎日のように頻繁に起こり、それが何カ月も続く。持続する場合はバセドウ病を疑って」(渡邊医師)。

 外見上の特徴には、首の腫れのほか、目がぎょろりとする眼球突出がよく知られるが「これらが必ず起こるわけではなく、患者さん全体の3割程度。喫煙習慣のある人に多く出ることが分かっている」(山田院長)。


間違えやすい病気
心臓病、更年期障害、消化器の病気、がん、神経の病気、皮膚の病気、双極性障害(躁うつ病)、目の病気、婦人科系の病気

症状の程度や妊娠など考慮し、3つの治療法から選択

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 治療には、ホルモンの分泌を抑制する薬の内服、甲状腺細胞を減らすアイソトープ(放射性ヨウ素)の内服、甲状腺を切除する手術の3種類があり、症状の程度や妊娠・授乳の有無などを考慮して選択する。

 ホルモン全般が変動しやすい妊娠や出産がバセドウ病の発症や再発・悪化の引き金になることも。「妊娠出産時には落ち着いていても、出産後数カ月で再発や悪化することも多いので、経過観察が大切」(渡邊医師)。

バセドウ病の治療法
  • 抗甲状腺薬
  • 甲状腺ホルモンの合成に関わる酵素の働きを抑え、ホルモンを過剰に作らせなくする薬。MMI(メルカゾール)とPTU(チウラジール、プロパジール)の2種類あるが、妊娠や授乳希望の場合はPTUがよい。1年~数年間の服用が必要。費用は1回の通院で1500円前後(3割負担の場合。薬の量で変動あり)。

  • アイソトープ
  • 放射線を出す機能を持ったヨウ素のカプセルを服用し、甲状腺ホルモンを作らせなくする。放射線による発がんの心配はないが、18歳以下や妊娠・授乳時は不可、など適応条件が。専用のアイソトープ管理室がある医療機関でしか行えない。費用は3割負担で3万円前後(伊藤病院の場合)。外来治療も可能で、服用の効果は何年も続く。

  • 手術療法
  • 甲状腺を摘出する。甲状腺の腫れが大きく、薬で十分な治療効果が見込めない場合に検討。費用は3割負担で17万円程度(伊藤病院の場合)。7~10日の入院が必要。

40~50代に発症が多いため、更年期症状と間違われやすい「橋本病」

図3◎ 更年期世代に発症が多い
増え始めるのは30代以降。特に40~50代を合わせると全体の3分の1程度を占めるので、更年期世代に多いといえる。(データ:伊藤病院)
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 甲状腺機能低下症の8割程度を占める橋本病は、決して珍しい病気ではない。「成人女性の20~30人に1人は、橋本病に関わる免疫の抗体が陽性、つまり病気の素因を持っている」(山田さん)。

 ただし、橋本病であっても実際に低下症の症状が出る人は3割程度。「すぐ命に関わらないので、症状が出なければ、橋本病と分かっても治療の必要はない」(山田さん)。一方、症状がある場合でも「症状だけでは他の病気との区別がつきにくい。気になったら血液検査を」(渡邊さん)。

間違えやすい病気
うつ病、更年期障害、認知症、低血圧、冷え症、腎臓の病気(まぶたのむくみの場合)、目の病気、皮膚の病気、脳血管障害、のどの病気、婦人科系の病気

ホルモン薬の服用で改善、昆布の摂りすぎに注意

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 治療は、不足している甲状腺ホルモンを補う薬の服用が中心。「橋本病では一生のみ続ける必要があるが、症状は治療開始後1カ月~数カ月で改善する。副作用の心配も特にない」(山田さん)

 治療開始後しばらくは、経過を見ながら薬の適量を見極めるため、1~2週間に1度の通院が必要だが、症状が安定し血液検査の数値も正常範囲に入れば、医師と相談の上、通院間隔を空けることも可能だ。

 日常生活ではヨードのとりすぎに注意。「ヨードは昆布に多く含まれる。橋本病の人だけでなく、甲状腺機能に異常がない人でも、毎日、昆布を浸けた水を飲むなど、多量にとり続けると、甲状腺が腫れたり、低下症になったりすることがある」(山田さん)。ただしとるのをやめれば改善する。なおヨード入りうがい薬の多用にも注意を。

 昆布以外の海藻類はヨード含有量が少ないため、常識的な量なら毎日食べても影響はない。

橋本病の治療法
  • 甲状腺ホルモン剤
  • 甲状腺ホルモン剤の一例、「チラージン」(写真)。一生のみ続ける必要があるが症状は徐々に改善。薬代を含む治療費は1回の通院で1300円程度(3割負担)。

妊娠や出産と甲状腺ホルモンは密接に関係?

不妊や不育との関連が

 甲状腺ホルモンは卵巣機能にも関わるため、過剰や不足は不妊や早産のリスクを高め、胎児に影響が出る可能性も。「ただし、治療すれば健康な人と変わりなく妊娠、出産できる」(山田院長)。特にバセドウ病は「好発年齢と妊娠出産を考える時期が重なるので、妊娠前に病気に気づき、治療を受けるのが望ましい」(渡邊医師)。

産後うつの原因にも

 産後うつは、甲状腺の異常が原因である可能性も。「無痛性甲状腺炎といって、産後、一時的に甲状腺ホルモンが過剰になることがある。しかしほとんどの場合、治療しなくても数カ月で正常値に戻る」(山田院長)。原因が分かるだけでも安心するもの。つらかったら一人で抱え込まず、内分泌科を受診して。

(取材・文:渡邉真由美/イラスト:いいあい、三弓素青)

(出典:日経ヘルス2014年11月号/記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)