日経グッデイ

働くオンナの保健室

冬がつらい「冬うつ」、夜がつらい「夜うつ」にご用心

働き盛り、出産・子育て世代でストレスが大きい30~40代に多い

やらなきゃならないことは山ほどあるのに、「やる気メーター」の針はピクリとも動かない。体が重い、眠い。一日中ゴロゴロして、夜はクヨクヨ。面倒くさいから食事は要らない、菓子パンを食べておこう。そんな人は要注意。うつの可能性大かも・・・。

冬は毎年気分がどんより…冬つらい「冬うつ」警報発令中

 冬になると憂うつになる「冬うつ」。これは、季節性感情障害の通称。典型的なうつといえば、「不眠」「食欲がない」というの が一般的なイメージだが、「冬うつ」は食べすぎ、寝すぎという症状が多く、うつとは自覚しにくい。

 冬にはほとんど太陽が出ない北欧などに患者が多い、季節性のある「うつ」。日本では柿の実が赤くなるころから増え始めるといわれ、春になると症状が改善する人が多い。10~11月ごろから徐々に元気がなくなり始め、眠くて、だるくて、何もやる気にならなくなるようなら、冬うつを疑ってみるべき。

図1◎ うつかもしれない!? セルフチェック
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 パークサイド日比谷クリニックの立川秀樹院長は「冬うつは20代の後半以降の女性に多い」という。

図2◎ 特に女性がうつになりやすい
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 「過眠・過食、体が重い、というのが最も多い症状。食べ物に“癒やし”を求める傾向があり、菓子パンのような甘いものや炭水化物を食べたくなります。また、寝てばかりでも食べるので、 “うつ太り”をする人もいる」(立川院長)。

 この冬うつの原因を、昭和大学医学部の平島奈津子准教授は「日照時間が短くなることが引き金となって、セロトニンなどの脳内の神経伝達物質が減ることが一因です」と解説する。

 蓄積したストレスも原因と考えられている。また、遺伝などの家族性も指摘されている。そして、日照時間が短い地域などの環境的なものも要因として挙げられているが、これらの要素が複合的に組み合わさって発症に至るケースが多いと考えられている。

【病院での治療】
一番つらい症状を薬で抑えながら、体内リズムを正常な状態に戻すように、生活改善を促す。強い光を使った高照度光療法も有効

ずれてしまった体内リズムをリセットする

 冬うつを始め、うつ病の原因とされているのが、セロトニン不足。そのため、脳内のセロトニン量を増やす薬、SSRIなどが処方される。また、セロトニンと関係が深い、メラトニンの観点からの治療薬も処方されている。「冬うつの患者は過眠などの睡眠障害を併発しやすい。原因はメラトニン分泌の異常が示唆されている。2010年に登場したロゼレム(ラメルテオン)というメラトニン受容体作動薬は新しい作用機序を持つ不眠症用の治療薬だが、冬うつの睡眠障害にも効果がある」(立川院長)。

 このほかに高照度光療法も有効だ。これは、朝の太陽と同じ程度の強い光を、毎朝2時間以上浴びる治療法。「薬より早く改善効果が出ることもあり、医療器具も市販されています」(立川院長)。光療法や薬の力を借りながら、「早寝早起き」や「過食をさける」といった、生活指導を医師から受けるのが一般的だ

昼は元気で夜はドーンと落ち込む…夜つらい「非定型うつ」にご用心

 定型うつ(典型的なうつ)の症状といえば、「眠れない」「食欲がない」「何をしても楽しくない」「朝は調子が悪く夕方にかけて少し良くなる」。

 しかし、最近はこのような典型に当てはまらない「非定型うつ」が増えていると見る専門家もいる。他人からの批判や小言に大きく動揺して落ち込むが、楽しいことがあれば気分が良くなるというように、1日のうちで気持ちが大きく浮き沈みするのが特徴だ。

 女性の患者数は男性の2~3倍、発症年齢は20~30代と若い。「非定型うつは、冬うつと同様に多眠・多食になりやすい。炭水化物や甘いものに対する渇望の症状が出ることが多い」(平島准教授)。

 長時間眠っても疲れがとれず、朝起きられないため、「今日も何もできなかった」と、夕方ごろから自己嫌悪になり、不安、落ち込みが強くなってくる。しかし、自分が好きなことは楽しめるため、周囲の人には「ただのナマケ病だ」と、なかなか理解してもらえない。「非定型うつの人は、自分がうまくいかないのは周りが悪い、と思ってしまう傾向がある。会社に対する不満も『今の職場では正当に評価されない』といった葛藤を抱えている人が多い」と立川院長。

 考え方の癖や生活リズムの乱れなど、何らかの「なりやすさ」を持っている人が、ストレスをきっかけに発症するケースが多い。他人の評価を気にして、不安な人はなりやすいといわれている。また、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の機能低下も関与していると考えられている。

【病院での治療】
SSRI、抗精神病薬のほか、感情調整薬も有効。薬以外では、その日の出来事を書き出して客観視する訓練の認知行動療法も効果的。

相手の立場で考える“ロールプレイ治療”も

 一般的にうつはセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の機能低下が一因と考えられている。非定型うつも、冬うつと同様にセロトニン量を調整するSSRIを処方されることが多い。また、ドーパミンの働きを調整する抗精神病薬なども処方される。

 「非定型うつの人は他人に言われたちょっとした言葉に傷つきやすいなど、人間関係に対して過敏なところがあるため、感情調整薬が有効なことも多い」(立川院長)。

 非定型うつは、悲観的になりがちな「考え方の癖」を取ることが大切。一日の出来事を書き出して、客観的に見直し、悲観的な受け止め方を直す訓練「認知行動療法」が行われる。

 また、想像力を豊かにし、適切なコミュニケーション法を学ぶ。「病院のグループ療法では、患者同士が部下と上司役になって、わざと攻撃的な態度をとるロールプレイを行う。これにより、逆の立場だったらどう考えるかという想像力を養います」(平島准教授)。相手の立場を経験し、理解することで「なぜキツい言葉を受けたのか」が納得でき、落ち着くという。

非定型うつの治療・病院で出る薬の例

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

 ストレスなどの影響で脳内の神経伝達物質・セロトニンが減少するのを防ぐ。パキシル、ルボックス、ジェイゾロフトなどが処方される。

抗精神病薬

 作用の強い安定剤。適応症状は幅広く、重度のうつ病や双極性障害、統合失調症などにも処方される。エビリファイやリスパダールなどもこの仲間。

感情調整薬

 イライラやあせりに効く。抗てんかん薬や抗躁薬が感情調整薬として使われることも。リーマス、テグレトールなどが処方されることも。

医師でも非定型うつと混同する!?
「適応障害」ってどんな病気?

 「落ち込んでいても、好きなことだけできる」ように見えることから混同されやすい非定型うつと適応障害。しかしこの二つの病気はまったく違うもの。適応障害とは大切な人との死別や会社、学校など、新しい環境やストレスにうまく適応できないこと。環境に慣れるか離れれば元気になる。「普通は6カ月ぐらいで環境に慣れて回復する。長引く場合は、うつの可能性が高い」(立川院長)。

ちょっと危ない? と思ったら、セルフで予防をしよう

 うつの根底にあるストレスは、どう解消すればいいのか。

 「人に話を聞いてもらうのは一つの方法。米国の女性を対象にした研究では、かかりつけの精神科医を持っている人より、話を聞いてくれる女友達を持っている人の方がうつになりにくい、という結果が出ています」(平島准教授)。

 あのときこうしていれば良かった…という「たら・れば」思考でぐるぐる考えながら落ち込みそうになるときは、ぐるぐるを断ち切るメソッドをいくつか持っているといい。例えば、冷たい水で手を洗う、好きなCDを聞く、香りのいいお茶をのむなど、簡単なことでいい。一つやってみて、ダメなら次、というように試していく。

 「仕事で出張ばかりという人は、たまには観光旅行に。家で旧作ビデオばかり見ているという人は、映画館で新作を見てみる。負担がかかる大転換ではなく、少しだけチャンネルを変えて楽しみを得るのが上手な気分転換のコツ」(平島准教授)。

 また、会社から家に帰る間に、寄り道をすることも、仕事のストレスを置き去りにする点で有効。「元気がある人なら会社帰りにスポーツクラブで汗をかくと能動的な癒やしになる。とてもそんな元気はない、という人はマッサージやエステなど、受動的な癒やしがお薦め」(立川院長)。

 セロトニンを活性させるには朝日を浴びるといいが、落ち込んでいるときにはそもそもベッドから出られない人が多い。「防犯面の問題がなければ、カーテンを開けっ放しで寝るといい。起きるころにはいやでも朝日を浴びているので、ベッドから出なくていい」(立川院長)。

図3◎ 立川式「冬うつ&非定型うつ対策」5カ条
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友人や同僚がうつになったらどうすればいい?

 まずは話を聞いてあげて「苦しかったね」と同調を。基本態度は「甘やかさないけど、優しい言葉」。

 「これ以上頑張れない」状態のうつの人に「頑張って」という言葉で励ましてはいけない、ということは常識化しつつある。まずは「つらい」という気持ちを聞いて、吐き出させる。そして「それはつらいね」と、共感して、「一人じゃないから、大丈夫」だと伝えてあげよう。

 とはいえ、友人などに長電話で何度も「苦しみ」を聞かされたのでは、聞く側のストレスになってしまう。そういうときは、相手が「拒否されたのではない」と感じるように、優しく、かつきっぱりと断っても大丈夫。

 「『あと30分で外出だから、そろそろ切るね。日曜日ならゆっくり話せるけど、どう?』『電話だとあなたの顔が見えないから、都合のいい日にお茶でも飲みながら話さない?』など、代案とセットに」(平島准教授)。

 また、甘やかさないことも優しさだ。「うつを理由に遅刻や無断欠勤を許したり、腫れ物に触るように甘やかしてはいけない。優しい言葉と態度で、しかし、きっぱりと、社会のルールを守らせよう」(立川院長)。

ほかにもある、こんなうつ
双極性障害

 昔は「躁うつ病」と呼ばれていたように、気分が高揚する時期と沈む時期が交互に来る。軽い躁状態が「普通」と思われると、うつ病と誤診されやすい。

産後うつ

 産後3~6カ月以内に、10~20%の人がなる。エストロゲンが欠乏することでセロトニンの働きが低下する。育児のストレスや睡眠不足も誘因に。

燃え尽き症候群

 仕事の繁忙期の後などに精根尽き果ててしまった状態。「報われない」という気持ちが引き金になることも。悪化してうつ病になることもある。

PMDD(月経前不快気分障害)

 排卵期から月経前まで、プロゲステロン(黄体ホルモン)が増えるのが原因。イライラしたり、キレやすくなったり、落ち込みやすくなったりする。

(取材・文:竹島由起/イラスト:いいあい)

(出典:日経ヘルス2013年1月号/記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)