生来の“脳の特性”による発達障害。周りとの違いが際立つ場合には小児期に発覚することが多いのですが、第1回では、なぜ、大人になってから発達障害だったと気づくのか、第2回では、大人になってから見つかることの多いASDとADHDのそれぞれの特徴について紹介しました。今回は、発達障害があっても問題無くすごしていくために知っておきたい、陥りやすいトラブルや困りごと、それぞれの対処法について紹介していきます。

大人になって気づくこともある「発達障害」は、脳の特性によるもの。生まれつき得意・不得意な分野が極端で、同じようなミスを何度も繰り返したり、本人は意図せずまわりに不快な思いをさせてトラブルを引き起こすことがあるが、「その特性が生活に困難をきたす障害になるかどうかは環境次第」と国立障害者リハビリテーションセンター研究所の和田真室長は強調する。職場や家庭の環境や、人との接し方、物事の取り組み方を工夫することで、トラブルを少なくすることは可能だ。
まずはどんなときに失敗やトラブルになるかを改めて思い返してみよう。その傾向がわかれば自分の特性を知ることにもつながる。
次に、失敗をできるだけ回避したりリカバーしたりするのに役立つスキルを身につけよう。言動を少し変えるだけでも状況が改善に向かうことがよくあるという。スマホなどに搭載されているカメラやメモ帳、To Doリスト機能といったツールも、苦手なことのサポート役としてうまく使うといい。
なお、「ASD(自閉スペクトラム症)なら興味のあることへの集中力が高く見識が豊富、ADHD(注意欠如・多動症)なら発想が豊かで人づきあいが良いなどの長所もある。得意分野が求められ不得手をフォローしてもらえる環境であれば、問題化せず高いパフォーマンスを発揮することも可能」と昭和大学発達障害医療研究所の太田晴久准教授はいう。場合によっては周囲に自分の特性を話して、理解とサポートを求めることも大切だ。
ここからは、発達障害の人が陥りやすい日常生活・仕事上の困りごとと対策の中から、大人だからこそ切実な問題になりやすい、対人関係や仕事の遂行に関わることを中心に、その具体的な対策を幾つか紹介していこう。
発達障害の人が陥りやすい困りごとと、その対策
困りごと 1 ケアレスミスが多い、時間にルーズ

うっかりミスは、情報を一時的にとどめる脳機能が弱いと起こりやすい。覚えておけるはずと自分を信用するのではなく、メモやスマホの撮影機能などを使って頭の外に情報の記録場所をつくること。とったメモは、自然に目が行くような場所に貼っておくといい。また、内容を声に出して読み上げたり、指差し確認することで、勘違いや間違いに気づくこともある。うっかりミスが多い人は、目で追うだけでなく声出し確認、指差し確認を習慣づけよう。
いつも予定に遅刻する、仕事の締め切りが守れないなど時間の見積もりが甘い人は、実際の予定より少し早い時間にスケジュール設定するよう習慣づけるといい。また、約束の時間の前に目的地の近くで実行できなくてもかまわないくらいの小さな予定を入れておくのも効果的。いざとなればその小さな予定をキャンセルすれば、本来の大事な予定には間に合わすことができるからだ。
お薦めの対策
- ● 必要そうなことはとにかくメモする。写真をとっておくのもいい
- ● ミスや漏れがないか声出し確認、指差し確認をする
- ● 余裕をもってスケジュールを組む
困りごと 2 物事の優先順位がわからない

すべきことは分かっていても、何から始めるといいのかわからずあちこち手をつけてしまったり、複数の物事を一度に抱えるとパニックになりがちな人は、まず予定の「見える化」を。ToDoリストを作るなど、すべきことを箇条書きにするといい。それを締め切り順に並べ、済んだら消していけば、混乱することなく作業もれを防ぐことができるし、終えた作業に対する達成感も得られる。
また、同時に複数のことができない人は、一つひとつの作業に集中する工夫も大事。仕事別にファイルをつくり、作業中はそれしか見ないようにするといい。
お薦めの対策
- ● ToDoリストをつくる
- ● 締め切り順に並べる
- ● 仕事別にファイルをつくって作業を明確に分ける