日経グッデイ

誰にも言えない…オトコのお悩み相談室

上司が変わって、胃もたれ・胃痛が続くも検査は異常なし…これ何?

「機能性ディスペプシア」の可能性も

 荒川直樹=科学ライター

まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。

 この3カ月で体重が2キロ減った。食欲はあるが、食べ始めるとお腹が張って食べられない。お腹がシクシク痛むこともある。妻は「胃がんかもしれないじゃないの」と青ざめ、内視鏡検査を受けたが異常なし。となると原因は…。オレの所属部署の部長は6月に役員へと大抜擢。その後釜として横滑りで入ってきたあいつは前部長への嫉妬全開。合理的理由が無いのにオレの部下の仕事にケチをつけまくり。おかげで部下の士気はダダ下がり。ヤツの顔を見るとみぞおちが燃えるように熱くなる。もう配置転換に期待するしかないが、それまでオレの体は持つのか。
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(イラスト:川崎タカオ)

 胃袋はとても繊細な臓器だ。焼き肉を食べ過ぎて「胃もたれ」がしたり、飲み過ぎで「むかつき」「吐き気」がしたりするのはよくあること。営業成績が発表される時期がやってくると、胃が「しくしく痛む」という人もいるだろう。

 まあ、よくある症状というわけだが、これがしょっちゅう続いている人も少なくない。若い頃、消化器科などで検査したけれど、胃潰瘍などの病気はなし。それで「神経性胃炎」と診断されたりして、自分で「胃弱体質」と思い込んでいる人もいる。

 これまでは病院に行っても積極的な治療が行われることがなく、その都度、市販の胃薬などで対処する人も多かったが、最近では、こうした胃の不調のことを「機能性ディスペプシア」(FD:functional-dyspepsia)と呼び、積極的な治療も行われている。

胃には異変がないのにつらい症状が

 機能性ディスペプシアとはどんな病気なのか。慶應義塾大学医学部医学教育統轄センターの鈴木秀和教授は、「みぞおちあたりの痛みや食後のもたれ感などの症状が数カ月以上、慢性的に続いているにもかかわらず、内視鏡検査などで異常が見つからない病気です」と話す。

 主な症状は4つ。「つらいと感じる食後のもたれ感」、「食事を始めても、すぐに胃がいっぱいになるように感じて、それ以上食べられなくなる」(早期飽満[ほうまん]感)、「みぞおちに痛みを感じる」(心窩部痛[しんかぶつう])、「みぞおちの焼ける感じ」(心窩部灼熱感[しんかぶしゃくねつかん])。こうした症状が頻繁に、しかも数カ月以上に渡って起こっている場合に、機能性ディスペプシアと診断される。

機能性ディスペプシアが疑われる部位と症状
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症状が頻繁に、しかも数カ月以上に渡って起こっている場合に、機能性ディスペプシアと診断される。

 鈴木教授は「機能性ディスペプシアの原因の一つは、胃の運動機能障害です」と話す。例えば、我々が食事をするとき、まず胃の上の方が広がり、食べたものを胃の中に貯める。この機能がしっかり働かないと、食べ物をうまく胃の中に貯められず「早期飽満感」を生じる。また、胃の中にある食べ物を十二指腸に送る機能が弱まると、食べ物がいつまでも胃の中に残り、強い胃もたれを感じることになる。

 そして、機能性ディスペプシアの患者の胃では「知覚過敏」も起こることがある。正常であれば何も感じない程度の刺激であっても、機能性ディスペプシアの患者では、少量の食べ物が胃に入るだけで大きく膨らんだ感じがして、それが痛みになったりする。また、普通は感じることはない程度の消化に必要な量の胃酸が分泌されたただけでも、「みぞおちの痛み」とか「焼けるような感じ」がもたらされることになる。

胃の機能異常が「クセ」になった結果起こる

 機能性ディスペプシアの患者では、なぜ胃の運動機能障害や知覚過敏が起こるのか。鈴木教授は「まだ、メカニズムの詳細までは分かっていません。しかし、消化器の病気では、長い間、不調を繰り返しているうちに、それがクセのようになってしまうことがあります。そこには精神的なストレスも深く関わっていることもあります」と話す。

 最初は、誰にでもある「食べ過ぎ」「飲み過ぎ」「イライラ」などによる胃の不調だったものが、繰り返しているうちにクセ(習慣)になって、慢性的な病気が発症している可能性があるということだ。

 そのため機能性ディスペプシアのための医薬品は、それぞれの症状を抑えるためのものが中心だ。胃の運動機能障害には胃腸の運動を活発にする「アコチアミド」が唯一、保険適用になっている。一方で、心窩部痛や心窩部灼熱感には胃酸の分泌を抑える「酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカー)」が使われるが、この場合はあくまでも対症療法なので、服薬を止めるとまた症状が出てくるケースが多いという。

薬に頼るだけでは根治は難しい

 では、どうしたらいいのか。鈴木教授は「薬に頼るだけでは機能性ディスペプシアは良くならないことも多いのです。胃の悪いクセを治す。つまり生活習慣を見直すことが大切です」と話す。

 どんな生活習慣が胃に良いのか。まずはメリハリだ。胃は、動かしたいときにしっかり動かし、そうでないときは休ませるというオンとオフが重要なのだ。例えば、夕方に軽食を取って遅くまで残業し、同僚と飲みにいって、散々飲み食いした帰りに締めのラーメン。これでは胃が休まる時間がない。主婦に多いのは、1日中、ちょこちょことおやつなどを口に入れる習慣だ。

 そして、胃に必要以上の負担をかけないこと。例えば、ほとんど噛まずに早食いすると、胃の負担は大きい。よく噛んで食べることが大切だ。若い人では(最近は高齢者にも多いと言われているが)コンビニの弁当など脂肪の多い食事を取りがちだが、毎日になると、胃にいわゆる「もたれグセ」がついてしまう。

 飲酒、喫煙も胃の負担となるが「アルコールについては、少量の食前酒程度なら、胃の動きをむしろ活発にする効果も期待できます」(鈴木教授)という。規則正しく、バランスのよい適量の食事を、よく噛んで食べるのが基本といえるだろう。

機能性ディスペプシアにならないための生活習慣
食生活の改善食べ過ぎ厳禁(特に脂っこいものや甘いもの)。腹八分目に抑える
早食いの習慣を改める
食事は規則正しく
禁煙、節酒
生活習慣の改善働き過ぎ(過労)に注意
睡眠時間をしっかり確保
精神的なストレスを解消

自律神経を整え精神的なストレスを軽減

 精神的なストレスの軽減も機能性ディスペプシアの改善には必要だ。鈴木教授は「高齢者の患者さんも最近は増えていますが、やはり30~40代の病気というイメージがあります」と話す。こうした年齢では職場で仕事の負担が大きいうえ、同僚や上司との人間関係で悩むこともある。これに、子供の進学など家庭の問題も重なるわけだ。精神的な要因が大きく症状が重い場合には、心療内科などとの連携が必要なケースもあるという。

 一方で、自分の胃の症状にとらわれすぎないことも大切だという。機能性ディスペプシアは、症状の重い場合は患者のQOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼすが、一方で、生死にかかわる病気ではない。内視鏡検査などで他に重要な病気がないことを明らかにして自らを安心させ、生活改善に前向きに取り組もう。十分な睡眠を取ることも大切だ。

 また、誰にでも勧められるのは、自律神経を軽く刺激するような運動だ。「速歩など、軽く汗ばむほどの運動を定期的に行うといいと思います」(鈴木教授)。

 鈴木教授は、「軽症の機能性ディスペプシアは、それほど深刻に構えることはないものの、軽んじているとどんどん悪化し、治りにくくなります。身に覚えがある人は、早め早めの生活改善が重要です」とアドバイスする。

鈴木秀和(すずき ひでかず)さん
慶應義塾大学医学部 医学教育統轄センター 教授
鈴木秀和(すずき ひでかず)さん 1989年、慶應義塾大学医学部卒業、1993年、大学院医学研究科博士課程修了。慶應義塾大学病院の専修医、同医学部内科学(消化器)専任講師、准教授を経て、2015年11月より現職。食道・胃・十二指腸疾患、ヘリコバクターピロリ感染症、胃食道逆流症、機能性消化管障害、消化器がんのの病態と治療、医学教育学、医療データベースが専門。