日経グッデイ

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ここぞ!というときに限って起こる激しい腹痛と下痢を改善したい

仕事のストレスが原因で起こることも

 荒川直樹=科学ライター

   「男は下痢、女は便秘」なんていうけど、学生の頃から下痢しやすかったオレ。彼女とのデートで巨大観覧車に乗ったはいいけど、途中から便意と腹痛が襲い、記念写真に写っている顔はゾンビのよう…。結婚してから下痢することは少なくなっていたのに、春に課長に昇進してから復活してきた。最近では、無茶な売上目標を押し付けられて得意先とのトラブルで悩んだときとか、重要な会議の前などにはトイレに駆け込むようになって…。先日は、パンツを少し汚したので、コンビニで履き替えて帰宅すると、妻は「あなた、パンツ脱ぐお仕事も大変ね」と完全に浮気を疑っている。この厄介な下痢、何とかしたい。

 職場で「しばらく出ていないんだ」と便秘談義に花を咲かせる女性陣を横目に、下腹をさすりながら青い顔でトイレに駆け込む営業男子。10分後には支店長会議でプレゼンをする予定なのに間に合うのか…。

下痢と便秘は紙一重

 このようにお腹に弱点を抱えている男性が多いのはなぜなのだろう。慶応義塾大学医学部内科学(消化器)の鈴木秀和准教授は「消化器疾患の患者数などを調べた疫学調査では、やはり下痢は男性に起こりやすく、便秘は女性に多いことが分かっている」と話す。女性は性ホルモンの影響で腸の働きが弱くなり、下痢より便秘に傾くためと考える専門家もいるが、詳しいことはまだ分かっていないという。

 しかも、下痢になるか便秘になるかは、実は大腸の機能のちょっとした差にすぎないともいえる。鈴木准教授は「便の中の水分の多くは、大腸で吸収されるが、その働きが少し変化しただけで、下痢になったり便秘になったりする」と話す。例えば、理想的とされるバナナ状の便の水分量は70~80%だが、これがほんの数%から10%増えれば「下痢便」の状態になる。

 例えば、毎晩ビールなどを飲む男性に多いのは「泥状便」というもの。便が緩いだけで、腹痛などはない。こうした男性は、そもそも夜間に摂取する水分量が多すぎるうえに、アルコールによる軽度の腸の機能障害も合わさって、「腸がむくんで,水びたしの状態」といえる。酒飲みに多い症状だが、体の危険信号の一つと考えよう。泥状便が毎日続くようなら、酒の量を減らすなど、自分の体質に合った飲み方に改めた方がいい。

治療薬に加えて食事、ストレスのケアを

 仕事上のハンディになりかねないのは、突然、刺し込むような腹痛と我慢できない便意が襲う下痢。トイレで排便するとスッキリするのが特徴だ。専門家が過敏性腸症候群(IBS)と呼ぶ病気で、ストレスや生活習慣が原因となり、腸の働きに関わるセロトニンという神経伝達物質の働きに異常を来たした状態といえる。午前中に症状が出やすいので、朝の通勤時における便意のために、途中下車を余儀なくされ、遅刻や欠勤の原因になることもある。

 鈴木准教授は「自分はIBSだと自覚していないビジネスマンの中でも軽度の症状を抱えている人は多いと考えられる」と話す。最初の症状は学生時代に始まることもよくあり、病気というより自分の体質(気質)だと思い込みがちだ。慣れない仕事を任せられたり、上司や同僚とうまくいかないなど、強いストレスが加わると神経伝達物質のバランスを崩し、さらに症状を悪化させることになる。

 生活の質(QOL)を大きく損ねた状態が長い間続くと、パニック障害やうつ傾向などの精神神経症状を来す場合もあるので、早めに病院の消化器科などを受診したい。医師はまず、もしかしたら症状の背後に潰瘍性大腸炎や大腸がんなど、下痢をもたらす重要な病気がないかどうかを合わせて調べる。そして、IBSと診断されたら生活指導や薬物治療を行う(表)。

過敏性腸症候群(IBS)の診断基準(RomeⅢ基準)

A 繰り返し起こる腹痛または腹部の不快感が、

 最近の3カ月のうち少なくとも1カ月に3日以上ある。

B Aに加えて、それらの腹部の症状が以下の3つのうち、2つ以上を伴う。

(1)症状が排便により軽快になる

(2)症状が出る場合の排便頻度が変化する

(3)症状が出る場合の便の状態が変化する

診断時の6カ月以上前から症状が出ており、最近の3カ月以上、AとBの症状が診られる。

 余分な水分を吸収して腸の機能を改善する医薬品のほか、男性の下痢型IBS治療薬として最近登場した「イリボー」(商品名)は、セロトニンの働きを改善させることで症状を和らげる。鈴木准教授は「これらの治療薬で、通勤時の不安が軽減されるなどの効果が期待できる」と話す。

 薬物治療と同時に生活改善も欠かせない。日本人の食事療法はまだ研究段階だが、鈴木准教授は「睡眠をしっかりとったり、運動をしたりしてストレスを解消するように心がけ、乳酸菌など腸内細菌のバランスを改善するものを試してみるなど、生活習慣を見つめ直し、自分に合ったものに工夫していくことが大切だ」と話す。また、上手なストレス解消などを心がけることも大切だ。

 そして、鈴木准教授は、「この病気は、あくまでも腸の機能の病気であるということをよく理解することが大切だ」と話す。「自分は、精神的に弱いからこの病気になった」という自己否定は病気を悪化させるだけだ。もちろん職場の上司や家族など、周囲の理解も大切である。「治療に取り組めば、必ず治る」と前向きに考えよう。

(次回は男性のうつなど、更年期障害のお悩みに答えます)

鈴木秀和(すずき ひでかず)さん
慶応義塾大学大學医学部内科学(消化器)准教授
鈴木秀和(すずき ひでかず)さん 1993年、慶応義塾大学大学院医学研究科博士課程を修了。慶応義塾大学病院内科での専修医、同医学部内科学(消化器)での助手、専任講師などを経て、2011年から同学部内科学(消化器)准教授。食道・胃・十二指腸の消化器疾患、ヘリコバクターピロリ感染症、胃食道逆流症、機能性消化管障害、消化器がん、膵がん、胆道がんなどの診断、治療が専門。