治療薬に加えて食事、ストレスのケアを
仕事上のハンディになりかねないのは、突然、刺し込むような腹痛と我慢できない便意が襲う下痢。トイレで排便するとスッキリするのが特徴だ。専門家が過敏性腸症候群(IBS)と呼ぶ病気で、ストレスや生活習慣が原因となり、腸の働きに関わるセロトニンという神経伝達物質の働きに異常を来たした状態といえる。午前中に症状が出やすいので、朝の通勤時における便意のために、途中下車を余儀なくされ、遅刻や欠勤の原因になることもある。
鈴木准教授は「自分はIBSだと自覚していないビジネスマンの中でも軽度の症状を抱えている人は多いと考えられる」と話す。最初の症状は学生時代に始まることもよくあり、病気というより自分の体質(気質)だと思い込みがちだ。慣れない仕事を任せられたり、上司や同僚とうまくいかないなど、強いストレスが加わると神経伝達物質のバランスを崩し、さらに症状を悪化させることになる。
生活の質(QOL)を大きく損ねた状態が長い間続くと、パニック障害やうつ傾向などの精神神経症状を来す場合もあるので、早めに病院の消化器科などを受診したい。医師はまず、もしかしたら症状の背後に潰瘍性大腸炎や大腸がんなど、下痢をもたらす重要な病気がないかどうかを合わせて調べる。そして、IBSと診断されたら生活指導や薬物治療を行う(表)。
A 繰り返し起こる腹痛または腹部の不快感が、
最近の3カ月のうち少なくとも1カ月に3日以上ある。 |
B Aに加えて、それらの腹部の症状が以下の3つのうち、2つ以上を伴う。
(1)症状が排便により軽快になる (2)症状が出る場合の排便頻度が変化する (3)症状が出る場合の便の状態が変化する |
診断時の6カ月以上前から症状が出ており、最近の3カ月以上、AとBの症状が診られる。 |
余分な水分を吸収して腸の機能を改善する医薬品のほか、男性の下痢型IBS治療薬として最近登場した「イリボー」(商品名)は、セロトニンの働きを改善させることで症状を和らげる。鈴木准教授は「これらの治療薬で、通勤時の不安が軽減されるなどの効果が期待できる」と話す。
薬物治療と同時に生活改善も欠かせない。日本人の食事療法はまだ研究段階だが、鈴木准教授は「睡眠をしっかりとったり、運動をしたりしてストレスを解消するように心がけ、乳酸菌など腸内細菌のバランスを改善するものを試してみるなど、生活習慣を見つめ直し、自分に合ったものに工夫していくことが大切だ」と話す。また、上手なストレス解消などを心がけることも大切だ。
そして、鈴木准教授は、「この病気は、あくまでも腸の機能の病気であるということをよく理解することが大切だ」と話す。「自分は、精神的に弱いからこの病気になった」という自己否定は病気を悪化させるだけだ。もちろん職場の上司や家族など、周囲の理解も大切である。「治療に取り組めば、必ず治る」と前向きに考えよう。
(次回は男性のうつなど、更年期障害のお悩みに答えます)
慶応義塾大学大學医学部内科学(消化器)准教授

